皆様、こんにちは。

1 イントロ

 配転とは企業内での職務内容や勤務場所の変更のことを指します。

 日本の企業は長期雇用が依然として多数を占めると思われます。そのため、様々な役職を経験させるという名目で、配置移動が頻繁になされることがあります。
 もっとも、配転が従業員の不利益を与える形となる場合には注意が必要です。
 そこで、今回は裁判例を紹介しながら配転の注意点についてお話します。

2 東亜ペイント事件

(1) 事案の概要

 当時全国13カ所に営業所を持つ会社に勤務していた従業員が、神戸から広島あるいは名古屋への転勤命令を受けたところ、母親、妻、長女と共に堺市内の母親名義の家屋に居住しているなどの理由から転勤を拒み、会社からの再三の説得にも応じなかったため、解雇処分を受けた事案です。

(2) 上記事件では最高裁判決(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)が出ています。注目すべき点は色々とありますが、本題との関係でいえば、当該判決は転勤命令等が権利濫用に当たるかどうかの判断基準を示している点がポイントです。その後の裁判例にも大きな影響を与えておりますので、まずは判断基準を見てみましょう。

 最高裁は①「業務上の必要性が存しない場合」や②「業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき」③「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」という判断要素を挙げています。また、①~③で挙げたような「特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない」としているので、権利濫用にあたるのは例外的なケースと読めそうです。

3 判断要素の中身(裁判例等を参考に)

(1) もっとも、上記の判断要素は具体的にどのような意味なのかやや抽象的な表現なのでわかりづらいかと思います。

 例えば、①業務上の必要性について、東亜ペイント事件判決は「業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」としています。つまり、人事配置を適材適所にしたい、配置人員を調整して業務改善を図りたい、従業員のモチベーションを上げる、といった理由で十分に要件を満たすということです。

(2) もっとも、これでめでたく①の要件を満たしているとしても、次に②他の不当な動機・目的に基づくか否かを検討しなればなりません。
 不当な目的・動機の例としては、特定の従業員への嫌がらせや退職に追い込むために閑職に配転するような場合が挙げられます。

 裁判例では、業務改革のために外部から引き入れられた従業員に対して、従前からの幹部従業員との折り合いが悪かったことから、採用時とは異なって営業職に異動させられ、上司から無理な業務命令が出されたりや営業不振を追求されて 解任に追い込まれたという事件がありました。裁判所では、配転命令が原告らを追い込む意図をもってしたものと推認できるとして、配転命令権の濫用があったとしています(東京地裁平成18年7月14日判決・精電舎電子工業事件)。判決には、配転の際に特に聴取を行わずに急に異動の辞令が出されたことや経験の少ない部署に置かれたにもかかわらず何の教育的配慮もなされていない、といった指摘もあります。

 本件のような追い出し行為は今も各所でなされていると思われませんが、従業員とのトラブル防止のために異動の前後のケアを怠ってはならないといえます。

 次回は、③「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」について、裁判例を紹介する予定です。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。