弁護士 仁藤 仁士

 

皆様、こんにちは。

 

1 イントロ(前回を振り返って)

配転(企業内での職務内容や勤務場所の変更)に関して、最高裁判例は、判断基準として①「業務上の必要性が存しない場合」や②「業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき」③「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」という要素を挙げていました。

この3つの要素のうち、前回は①と②について見てまいりました。

今回はその続きということで、③「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」について、裁判例を紹介していきたいと思います。

 

2 裁判例の紹介

(1) 専ら問題とされるのは、配転によって勤務地が変わって、家庭生活に大きな支障が生じるケースです。以下は、配転の効力を認めなかったケースです。

   パーキンソン病や心臓弁膜症等の病気の家族3人の面倒を父親と見ていた事案(東京地裁昭和43年8月31日判決・日本電気事件)、躁うつの長女、精神運動発達遅延の次女、体調不良の両親の面倒を見ていた事案(札幌地裁平成9年7月23日決定・北海道コカ・コーラボトリング事件)、重傷のアトピー性皮膚炎を患っている子供2人の面倒を共働き夫婦で見ていた事案(東京地裁平成14年12月27日決定・明治図書出版事件)、非定型精神病を患っていて常に側にいる必要のある妻がいた事案(神戸地裁平成17年5月9日判決・ネスレ日本事件)などがあります。

   これらのケースの共通点は、配転により単身赴任等で家を離れなければならなくなると、家庭を維持できなくなるという点です。

裁判所は、単身赴任をすること自体については、通常甘受すべき程度の不利益であると考えているようです。性別だけで当然に結論が別れるということもありません。ただ、育児・介護休業法が会社(使用者)に対して、子の養育や家族の介護に配慮することを義務づけている(同法26条参照)ことから、会社に対して求められる配慮の水準は近時の方が高まっているといえそうです。

となると、次のポイントとしては、会社がどこまで配慮しなければならないかということです。

上記の裁判例の中では、会社が引っ越し代や配転先での賃料負担といった経済的負担を行ったケースもありますが、そもそも配転を命令という形で押しつけていたという経緯があったり、配転によるその後の具体的な見通しを考えていないなど手続の進め方や配慮に中途半端さが否めなかったため、従業員の不利益は依然として甘受できない程著しいものであったと評価されたようです。

(2)  ケンウッド事件

   しかしながら、配転により勤務地の変更があり、家庭生活に影響が出る場合であっても、配転の有効性が認められたケースもあります。

   標記の事件では、東京都目黒区で勤務していた女性従業員が、八王子事業所に異動となりました。しかし、この従業員は品川区在住であるところ、夫婦共働きの上に3歳の子がおり、子を保育園と自宅保育を依頼して面倒を見てもらってきた経緯がありました。八王子事業所での勤務となると、通勤に片道2時間弱を要することになります。

   裁判所では、この従業員が被る不利益は必ずしも小さくはないとしながらも、なお通常甘受すべき程度を著しく越えているとはいえないと判断し、本件の移動命令を有効としています。

   この事件では、異動先が単身赴任が必須とはいえない距離であり、転居するか否かは専ら従業員の判断に委ねられるといえます。さらに、会社が話し合いの場を設けようと再三働きかけても、従業員の方が全く応じなかったという経緯も判断に影響していると考えられます。

 

3  会社としては、異動の内容にもよりますが、異動命令を検討する段階で異動の候補となっている従業員から、生活状況等を聴き取っておくことが大切といえます。「もう決まったことだから」と強硬に進めてしまうのが最大の問題です。

聴き取りの際には、もちろん、業務上の必要性を従業員に対して説明する必要がありますが、フォローなしに従ってくれと説得するのは控えるべきです。

ただ、前記のとおり、会社がある程度金銭面の手当をすれば万事許されるというわけではなく、異動の対象となった従業員の家庭状況とのバランスと総合考慮されます。人事担当の方々の苦労は尽きないところですが、遠方への異動を検討する際には、手続を慎重に踏んでいくスタンスで望まれるのがトラブル防止という意味でも無難です。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。