先日、法制審議会で民法の成年年齢を18歳に引き下げるのが相当であるとの答申が出されました。最終的にどうなるかは立法が待たれますが、民法が明治29年に制定されてから、ついに、20歳で成年という常識が破られたのです。
さて、今回は、たまたま先日法制審議会の委員であった先生と話を聞く機会がありましたので、これに対する私見と、これによる企業さんへの影響があるのかどうかを見ていきたいと思います。
民法の成年年齢を引き下げようとなったのは、平成19年5月に成立した国民投票法にあると思われます。国民投票法では18歳以上のものに投票権が与えられたのです。
しかし、これによりすべて18歳とするのがいいというわけではありません。タバコやお酒は20歳とされています。これは、健康上の問題を考え、このようになっています。
民法の成年年齢というのは、未成年者との一線を引くものであります。未成年者は、法律行為を単独ですることができず、単独でしても取消権を有することになります。成年になると、この取消権を失います。そのため、民法の成年年齢を考えるに当たっては、単独で法律行為をするだけの判断能力を持つのは何歳か、という観点から考える必要があるのです。法制審議会民法成年年齢部会でも選挙権等と一緒に考える必要はなく、他の法律との関係を考えず、民法の成年年齢の引下げのみ考えることとなったそうです。
法制審議会の報告書を見ると、年齢を下げるとどういう弊害があるのかという観点から、反対の意見が多く出されていたようにみえます。
弊害というのは、主に消費者被害から保護されなくなるというところにあるようです。しかし、消費者被害というのは、成年年齢を引き下げないということにより保護するのではなく、悪徳商法を取り締まることで対応していくべきなのではないかと思います。悪徳商法に引っかかるのは、実は、20代ではなく、30代が一番多いという統計があります。18歳に下げず、20歳のままにしておいてもそんなに変化はありません。やはり、これは引下げ反対の理由にならないと思います。
では、成年年齢を引き下げると、企業さんにとって何がメリットになるでしょうか。
私が思うに、人生の中でまず大きな契約をするというのが、18歳になった後の4月ではないかと思います。大学に入ればアルバイトをする人が多くいます。アルバイトをするにも労働契約を結ぶ必要がありますが、成年でないと親の同意が必要です。携帯電話の契約でもそうでしょう。大学から一人暮らしを始めると、アパートの契約だってあります。高校を卒業して仕事をする人もいます。この人たちも労働契約を締結する必要があります。このように、大きな契約が18歳でできることになります。これは、企業さんにとっても、いちいち両親の了解を得る必要がないという点でメリットになるのではないでしょうか。
18歳というのは、諸外国の例に倣ったわけですが、17歳ではなく19歳でもなく18歳というのは、このように、18歳になった後の4月にいろいろとあるからではないかと思います。
私は、個人的には18歳への引下げというのは賛成です。20歳と18歳、現在では、精神的にも判断能力的にもそう大きく変わらないのではないでしょうか。
みなさんは、どう思いますか。ただ、18歳で成年として扱われるのに、他の法改正が変更されていないため、なぜ、お酒やタバコが駄目なのか、選挙権がないのか、質問された場合、私は納得してもらうだけの説明できません。立法論からの説明はできますが、それでは納得してくれないでしょう。そのうち、法改正が順次なされていくと思われますので、その動向を見守る必要があります。
弁護士 松木隆佳