昔は、司法試験の合格発表の翌日に、司法試験合格者の氏名が新聞各紙に掲載されました。
 でも、マスコミが司法試験に関して取り上げるニュースはそれくらい。合格発表が終わると、翌年の合格発表まで司法試験に関連する記事が掲載されることなんてなかったんです。

 でも、新司法試験が始まってから、様々な問題が発生し、司法試験関連ニュースを新聞紙上で目にする機会が多くなりました。
 そのたびに、このブログでも取り上げるようにしているのですが、2009年11月2日の日経新聞朝刊14面に「司法試験通っても就職難」という見出しで大きく取り上げられておりました。

 同紙によると、「旧来の試験に比べると合格率は上昇したものの、景気低迷で法律事務所は採用に慎重」とありました。
 確かに、景気の影響が全くないわけではありませんが、本質的な問題は違うと思います。
 新司法試験合格者の就職難が顕在化したのは、リーマン・ショック後のことではありません。新司法試験合格者第1号の新60期司法修習生の就職活動からして就職難でした。当時から計画的な採用を実施していた弊事務所も、履歴書の山に埋もれ、選別に四苦八苦しました。

 そもそも、司法制度改革の際、受け皿となる法律事務所の数についてはまともに議論されていませんでした。議論されていたのは、国民の人口との対比における弁護士人口です。つまり、国民の人口と比べると弁護士の数が少なすぎるという議論でした。しかも、企業が顧問弁護士ではなく社内弁護士をほしがるというニーズもあると言われていました。
 しかし、ふたを開けてみたら違った。採用予定の法律事務所の数や採用予定人数が就職希望の司法修習生の数を大きく下回ったからです。また、社内弁護士を求める企業の数も当初予想していたほどではありませんでした。
 なので、景気が少々好転しても、就職難という基本的傾向は変わらないと私は見ています。

 ところで、先の日経新聞の記事の中に興味深い指摘がありました。
 企業の法務部門担当者が集まる経営法友会の代表幹事を務める松木和道氏が、「将来的には人材のミスマッチが生じる」と危惧しているというのです。
 何がミスマッチを引き起こすのでしょうか。

 同氏曰く、「企業側は実際には純粋な新人よりも法律事務所で数年働いた経験がある人材を好む傾向がある。思惑のズレがいずれ顕在化するのではないか」というのです。

 なるほど、私たち法律家の世界では経験が物を言うのは確かです。大企業の顧問になりたい弁護士はたくさんいますから、顧問弁護士を選ぶ際に、企業側が「その分野に強い経験豊富な顧問弁護士」を確保することは比較的容易です。
 しかし、社内弁護士となると、状況は一変。試験に合格しただけで「経験ゼロ」の弁護士を社内に迎え入れなければならないのです。
 顧問弁護士は一流、社内弁護士は三流になってしまいます。
 確かに、これは将来ミスマッチとして新たな問題になるかもしれません。