民主党政権下の亀井大臣が、「中小企業の返済猶予を認めてやるべき」という趣旨の発言をメディアを通して行っていたことは記憶に新しいと思います。
その意向をくんでかどうか分かりませんが、金融庁が今月22日、金融検査マニュアルの重要な改訂作業に入ったようです。このマニュアルは、金融機関の不良債権処理の指針となるものです。
改訂の大きな目的は、零細・中小企業を対象に、債務の返済猶予の取扱を含む新体制の構築です。
その重要な項目を整理してみましょう。
1 貸付条件の変更を行っても、利払いを継続すれば不良債権扱いにしない。
2 現在、期間限定の時限的措置となっている金融検査マニュアルを恒常化する。
3 銀行などの金融機関に対して貸付条件の変更に応ずる努力義務を課す。
この改訂は、基本的に零細・中小企業にとって朗報ではあります。このマニュアルに沿っていれば、銀行が返済猶予に応じても不良債権扱いにならないため、銀行は貸付条件の変更に応じやすくなるからです。
しかし、これは一定の要件の下に、従来不良債権として考えられてきたものを不良債権扱いにしないということにすぎません。
ビジネスの常識に従えば、返済猶予や貸付条件変更の申込みは、不良債権扱いするのが普通でしょう。それなのに、なんでそんな改訂をするのかというと、それは零細・中小企業を保護するためです。この措置で本当に零細企業が再建に成功し、銀行への返済を正常化できればよいのですが、その甲斐なく倒産してしまったら、後で不良債権問題が顕在化します。
そうすると、零細・中小企業を一時的に救済するカンフル剤としては有効性があっても、そのつけが後で銀行の不良債権問題として顕在化してしまったら、後々に深刻な問題を残すことになります。
金融機関に対しては、あくまでも努力義務ですから、この点を懸念して貸付条件の変更を渋る金融機関も出てくるかもしれません。
実際の運用を待ってみなければ、金融機関がどれだけ協力的な姿勢で臨むのか、返済猶予で再建に成功する零細・中小企業がどのくらい出てくるのか、正直言って未知数です。
いずれにしても、却って深刻な不良債権問題を先送りすることにならなければいいんですけどね。