1 はじめに
民主党が政権をとって、労働者派遣法の改正問題はどうなるのか、固唾を飲んで見守っている関係者の方も多いのではないかと思います。
さて、法律問題と言えば、日弁連の立場も気になりますよね。個人的には、政治的影響力の弱い団体だと思っているんですが、一応法律の専門家集団です。しかも、各都道府県単位の弁護士会ではなく、日本の全ての弁護士が会員となっている全国組織ですから、それなりに気になります。
日弁連が発行している「日弁連委員会ニュース」という新聞があるのですが、この10月号に「労働者派遣法の抜本改正に向けた取り組み」と題して大きく取り上げられていたので、この記事を参考にして日弁連の立場を簡潔に整理したいと思います。
2 日弁連の立場
ご存じのとおり、2008年11月4日、政府が労働者派遣法の改正について閣議決定を行いましたが、実は、日弁連は、第51回人権擁護大会決議で、この閣議決定の改正案に反対する決議をしたんです。
労働者派遣法を改正しようという政府の立場に反対しているわけですから、「改正するな」という立場かと誤解される人もいるかもしれませんが、そうではありません。「政府の改正案じゃ手ぬるい。もっと徹底的に改正しろ!」という立場なんです。
それが証拠に、日弁連は、2008年11月6日、「労働者派遣法の改正案に反対し、真の抜本改正を求める会長声明」を出しています。
要するに、政府案では「抜本的」改正になっていないということです。
では、日弁連は、具体的にどのような改正を求めているのでしょうか。
この点について、日弁連が2008年12月19日、「労働者派遣法の抜本改正を求める意見書」を公表しているので、それを参考にすれば日弁連の立場がより鮮明になります。
その意見書の内容は、以下の8項目にわたります。
①派遣対象業務を専門的なものに限定する、②登録型派遣を禁止する、③日雇い派遣は派遣元と派遣先の間で全面禁止する、④直接雇用のみなし規定を創設する、⑤派遣労働者に派遣先労働者との均等待遇をなすべき義務規定をもうける、⑥マージン率の上限規制をする、⑦グループ内派遣は原則として禁止する、⑧派遣先の特定行為禁止する。
3 コメント
すごいでしょ。これを本当に全部実現させたら、たぶん労働者派遣制度自体が事実上なくなりますよ。
日雇い派遣は社会問題化しているので、禁止してもよいと思います。
でも、登録型派遣の禁止は、実質的に労働者派遣制度を殺すことになります。全てが「常用型派遣」になってしまったら、人材派遣会社は、派遣先がなくても派遣社員に給料を支払わなければなりません。これをやられてしまうと、誰も派遣会社を経営したいなんて思わなくなりますよね。仕事のない人に給料を支払わなければならない仕組みなんて機能しません。
直接雇用のみなし規定をもうけるというのもナンセンスです。派遣先に対して派遣労働者の間の直接雇用関係を押しつけようとするものです。
これは、労働者派遣絡みの訴訟で、原告(派遣労働者)が概ね主張してきたものです。多くの裁判例では、原告が派遣先との直接雇用関係の成立を主張してきました。そしてまた、多くの裁判例がその主張を退けてきました。「裁判所が認めてくれないんだったら、法律を作ってしまえ」ということなんでしょうね。
マージン率の上限規制をする、という改正案にも笑えます。
これで派遣労働者の賃金が上昇すると思っている。
もしこの規制が実施された場合、私が人材派遣会社の経営者だったら、派遣労働者の給料を上げずに派遣料を下げますね。その方が価格競争力がつきますから。そうすると、競合他社も対抗して派遣料を下げます。
結局、マージン率が下がったことによる果実を得るのは、派遣労働者ではなく、派遣先である多くの大企業です。