当事務所でも、毎年恒例の秋の健康診断の時期がやってきました。最近、毎日のように飲み歩いているため、おなか付近が気になるようになってきてしまいました。メタボ、なんて言葉ができてしまったがために、なおさら気になっています。健康のため、会社の階段をエレベーターがあるにも拘らず、一生懸命上り下りしている人もいるようですね。私もたまにやっています。しかし、雨の日の階段というものほど危険なものはありません。私は、通勤途中ではありませんでしたが、階段を踏み外したことが今までに2度ほどあり、結構な怪我をしました。
そこで、今回は、通勤途中に、エレベーター等代替手段があるのにあえて階段を使って怪我をした場合も労災補償が下りるのかをみていきたいと思います。
さて、「通勤災害」とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡をいうものと定義されています(労災保険法7条1項2号)。
また、「通勤」とは、労働者が、就業に関し、①住居と就業場所との間の往復、②就業場所から他の就業場所への移動、③ ①の往復に先行し、又は後続する住居間の移動を、合理的な経路及び方法により行うことを言い、業務の性質を有するものを除きます(同2項)。ただし、労働者がこれらの移動の経路を逸脱し、又はこれらの移動を中断した場合においては、これが日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合を除き、当該逸脱又は中断の間及びその後の移動は通勤となりません(同3項)。そして、日常生活上必要な行為であって厚生労働省で定めるものは、①日用品の購入その他これに準ずる行為、②職業訓練、学校教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為、③選挙権の行使その他これに準ずる行為、④病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為であります(労災保険法施行規則8条)。
今回のテーマで問題になるのは、「合理的な経路及び方法」でありますので、この点を中心に説明していきたいと思います。なお、「逸脱」や「中断」は、経路の途中で通勤と関係のない目的で経路をそれたり、経路上で関係ないことをしたりすることでありますので、今回は問題となりません。
平成18年3月31日基発第331042号によれば、「合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段のことをいいます。
経路については、会社に届け出ているような経路及び通常これに代替することが考えられる経路が合理的な経路になります。逆に、特段の合理的な理由もなく著しく遠回りとなる経路をとる場合には、合理的な経路とはなりません。
方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用しようが、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用しようが、徒歩であろうが、通常用いられる交通方法であれば、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず、一般に合理的な方法と認められます。
以上を踏まえて検討いたしますと、エレベーターを利用するか、階段を利用するかは、当該労働者の自由でありますし、その方法も不合理とはいえないと思われますので、労災の対象となるのではないかと思われます。
ただし、これは、あくまでも私の私的見解でありますし、具体的場合によって(階数などにもよって異なるかもしれません)判断が異なるかもしれませんので、詳細につきましては、労働基準局か、お近くの各都道府県労働局にお問い合わせするのがよろしいかと思われます。
そして、労務管理として経営者の方は確認のうえ、もし労災が下りないということをいわれたら、従業員にその旨の注意をしておいたほうが良いでしょう。
弁護士 松木隆佳