1 あり得ないと思っていた

 札幌弁護士会の副会長、加藤恭嗣弁護士が2009年9月18日、覚せい剤所持で逮捕されました。覚せい剤の自己使用も認めているそうです。
ノリピーが覚せい剤で世間を騒がせたと思ったら、今度は弁護士です。これは法曹界を震撼させる事件だと私は思っています。

 弁護士も人の子です。覚せい剤に手を出す弁護士がいても不思議ではないという意見もあると思います。しかし、私の中では、弁護士が犯す犯罪としては最もありえないのが薬物事犯です。
 弁護士も人間ですから、カーッとなって人を殴ることはありえます。だから、暴行罪や傷害罪は起こっても不思議ではありません。弁護士だって女性が好きです。弁護士による痴漢や強制わいせつも理解できる範疇です。真面目な人でも、一時的な感情や欲望に負けてこれらの犯罪を犯すことは十分ありうるわけです。弁護士だって例外ではありません。

 しかし、薬物犯罪、特にハードドラッグと呼ばれる覚せい剤については、普通に生活している人にとっては縁がない犯罪です。
 まず、動機がない。お金に困って窃盗や詐欺を行うとか、自己の性欲をコントロールできなくて性犯罪を行ってしまう、ついカーッとなって他人を殴ってしまう…。これらの犯罪は人間の感情や欲望と関連しているので、ある意味人間らしい(?)犯罪です。
 しかし、覚せい剤などの薬物事犯は、このような意味での動機がない。ほんの出来心としかいいようがない。自制心のない私のような人間でも(笑)、覚せい剤はありえません。ほかの犯罪ならともかく…。

2 人はどうして薬物に手を出すのか

 私も職業柄、若いころは覚せい剤事件の弁護人をつとめたことが何度もあります。弁護士という職業は、その意味では覚せい剤に手を出すような人たちと接点ができやすい仕事です。
 しかし、刑事事件の被疑者や被告人が弁護士に覚せい剤をすすめるなんて考えられません。百歩譲って、弁護士に覚せい剤をすすめる被疑者・被告人がいたとしても、「そうか、ならば私も一度やってみようかなあ」なんて弁護士もありえません。脱税や痴漢とちがって、メリットなんてありませんから。
 むしろ、覚せい剤を始める動機のほとんどが好奇心や興味本位だと思います。それ以外に強烈な動機というのが見当たらない犯罪なんですね。加藤弁護士も、接見に来た弁護士に対して、「どうしてこんなことをしたのかわからない」と話しているそうです(2009年9月19日毎日新聞朝刊)。

 しかし、好奇心だけでは即座に薬物に手を出そうということにはなりません。
 やはり、薬物事犯に手を出すきっかけの最大の原因は交友関係です。薬物をやるような人たちと交友関係になければ、なかなか機会がない犯罪です。
 加藤弁護士が、ひとりで覚せい剤に興味を持ち、誰にも薦められず自分の意思だけで決意し、覚せい剤の売人を探したとは信じられません。
 どこかで覚せい剤をやるような人種と交友関係を築いたんでしょう。そして、それは刑事事件の被疑者・被告人ではありません。通常弁護士が仕事の依頼者と友人になることはないからです。ましてや、刑事事件の被疑者や被告人とプライベートで交際があるなんて話は聴いたことがありません。

 どうしてこの弁護士が覚せい剤をやるようになったのか、今後の捜査が注目されます。