債権が回収できなくては、経営が回らなくなってきてしまいます。そのため、経営者の皆さんは何としてでも債権を回収しようと考えるでしょう。しかし、いくら権利者だからといってやり方を間違えると犯罪行為に該当して捕まってしまう可能性もあります。
そこで今回は、どのような債権の取立てをすると犯罪になってしまうのか、その一部(全てを網羅的に検討するというのは不可能なので)を見ていきたいと思います。
相手方が自ら支払いをしてくれないとき、一番手っ取り早くやるために、自分で行って相手の物を取ってきてしまうことでしょう。しかし、日本では、相手の者に対して強制執行をするためには法的手続きを取らなければいけないことになっており、それによらずにこっそりと、または強制的に奪ってきてしまうことは、窃盗罪(刑法235条)または強盗罪(同法236条)になってしまいます。
それでは、相手が払うように脅してやろうということになるかもしれませんが、それはそれで恐喝罪(同法249条)になってしまいます。払わない者に対しては、強く言わないと払ってくれないことは確かですから、まあ、ある程度は心理的に迫る必要があります。要は、その程度が問題になのです。その程度が行き過ぎると、判例(最判昭30・10・14刑集9―11―2173)の言い回しで言えば、社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超えると、恐喝罪になるということです。たとえば、上記判例の事案は、債務者に対して返済をしないと身体に危害を加える態度を示して、数名で「俺たちの顔を立てろ」などと言って危害を加えられるかもしれないと畏怖させたという事案でありましたが、恐喝罪の成立を認めました。
また、貸金業者は、貸金業法の規制を受けますので、貸金業法47条の3第11項3号(取り立て行為の規制)、21条1項などにも注意が必要です。この規定の違反には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金又はそれらが両方科されることがあります。
さらに、あまり知られていないところでいいますと、もはや支払うことができない状況にある(破産状態にある)債権者から、このことを知った上で、抜け駆け的に弁済を受けたりすると、詐欺破産罪(破産法265条4号)の共犯になってしまう可能性があります。
その他具体例として、売主Aが第一買主Bに不動産を売却し後、同じ不動産をさらに第二買主Cに売却した場合ですが、判例(最決昭30・12・26刑集9―14―3053)によるとBに横領罪(刑法252条)が成立します。この場合、基本的にはCには横領罪の共犯は成立しないというのが判例であります。しかし、Bを害するために、ことさらにAに働きかけてこのようなことをさせたりすると、いわゆる背信的悪意者として、横領罪の共犯になる可能性がありますので、注意しましょう。犯罪になるにしろ、ならないにしろ、他人に売ったものを、登記を移していないのをいいことに売り渡させるのは、個人的には倫理に反するようと思います。
同様に、債務者Aがその所有する不動産を債権者Bのために抵当権を設定した後、登記をする前に、他の債権者Cに抵当権を設定して登記をしてしまった場合は、背任罪(刑法247条)になりえます。そして、抵当権を設定させたCについても同様に、Bをことさらに害する意図でAに働きかけて抵当権の設定、登記をさせた場合には背任罪の共犯になりえます。
このように、担保に絡んで犯罪が成立することもあります。債権回収の際は、やりすぎによって犯罪を行ってしまうことのないように十分注意しましょう。
弁護士 松木隆佳