1 執行する財産が見当たらない

 訴訟を起こしてたとえ勝訴しても、強制執行する財産が見当たらなければ、判決は絵に描いた餅になってしまいます。
 実はこのような事情が、多くの裁判が和解で終結する大きな理由になっています。つまり、判決をもらっても執行できない、ならば和解しよう、和解すれば任意の支払いを期待できるから…となります。
 裁判所も、しばしば当事者を口説く決まり文句としてよく使います。「判決をとっても、執行リスクがありますよ。和解した方がいいですよ」。このようなセリフを聞いたことがある当事者は少なくないと思います。

 しかし、これでは法的救済の効果が半減してしまいます。訴えられた被告も開き直り、「判決を取れるものなら取ってみろ。どうせ、執行不能だ。判決なんか恐くない」という態度を誘発してしまいます。
 これではごねた者勝ちです。

 そこで、できれば被告のこのような恐喝外交に屈することなく、判決を取って強制執行できるようにする必要があります。

 実は、勝訴した原告が、強制執行するのに必要な被告の財産に関する情報収集を助ける制度があります。

2 財産開示手続

 訴訟で勝訴した当事者は、債務者に財産が見当たらない場合、裁判所の命令で、債務者に財産を開示させる方法があります。
 これが「財産開示手続」です。
 但し、これを利用するには、確定判決か和解調書が必要です。よく、「公正証書は、確定判決と同じ効力がある」と表現する弁護士さんがいますが、これは不正確です。公正証書では、この財産開示手続を利用できません。ちなみに、支払督促でもこの制度を利用することはできませんので注意が必要です。

 この制度を利用すれば、債務者が裁判所に出頭すれば、債権者は、債務者に対して、債務者が提出した財産目録の内容について質問することもできます。

 もっとも、この制度には大きな限界があります。
 というのは、この制度を利用しても、債務者がこれを無視して財産目録を提出してこない場合もあるからです。
 債務者がこの手続きを無視しても過料の制裁しかないので、強制力という点では大きな限界があります。
 しかし、裁判所から財産目録の提出を命じられてこれを完全に無視する人ばかりではありません。やっぱり、多くの人にとって、裁判所は恐いところなので、この手続に債務者が協力してくるケースも珍しくありませんので、諦めずにトライしてみてください。