1.事業再生ADR
ジャスダックに上場されている日本エスコンが、2009年6月22日、事業再生実務家協会(JATP)に事業再生ADR手続の申請を行い、正式に受理されたそうです。
事業再生ADRの事案としては、大阪では初めて、というか関西で初めてだそうです。
事業再生ADRは、2008年11月に、経済産業省が認定した私的整理スキームのひとつです。
私的整理というと「私的整理ガイドライン」が有名ですが、そのスキームは主力銀行の関与が強かったことから、中立性という点では問題がありました。
事業再生ADRは、私的整理ガイドラインと比較すると、中立性が高いと言われています。
但し、基本的には取引先金融機関との間における債務整理のみが対象となっているため、有利子負債が経営不振の原因になっているような企業の再生でないと利用は難しいかもしれません。
損益計算書を身れば一目瞭然ですが、有利子負債が経営を圧迫している場合は、経常損益が赤字になっています。営業損益が黒字なのに、経常損益が赤字の場合は、ほぼ間違いく有利子負債が原因で企業の資金を圧迫しています。
これに対し、営業損益が赤字の場合には、有利子負債を整理しても延命策にはなるでしょうが、事業再生ADRだけで再建することは困難です。銀行が大幅な債権カットに応じてくれても、時間の問題で経営破綻してしまいます。
2.日本エスコン、事業再生への道のり
日本エスコンは、不動産分譲事業を手がけている会社で、2006年12月期には、516億円の売上高を記録していたそうです。
しかし、その後、不況の煽りで不動産市況が悪化し、日本エスコンの業績も2年後の2008年12月期には、棚卸資産の評価損等で約120億円の赤字に転落。
その6ヶ月後の2009年6月に事業再生ADRによる事業再生を決断。
もっとも、今回の事業再生ADRの基本的スキームは、債権カットではなくて、返済計画のリスケジュールにとどまるようです。単なるリスケだったら、何も事業再生ADRまで活用しなくても、銀行との個別の交渉でもよさそうですが、さすがに上場企業ですので、取引先金融機関が約20行あるそうです。
私も以前、特別清算で経験しましたが、取引先金融機関がたくさんあると、この調整がけっこう大変なんです。銀行によって考え方が違っていて、「うちはこんなに譲歩しているのに、なぜあそこは譲歩しないんだ!」という不満が出てきます。
このような事態が想定できる場合には、事業再生ADRのような中立な第三者機関を利用した方が、話はスムーズかもしれませんね。
3.ネックは社債権者との協議
実は、日本エスコンの場合、借入先金融機関との間のリスケは、再建のための必要条件ですが十分条件ではありません。
なぜなら、償還不能となった無担保社債が約150億円にものぼるからです。
先にも書いたように、事業再生ADRでは取引先金融機関だけが対象となっているので、社債権者は対象外です。
したがって、日本エスコンの場合は、事業再生ADRと並行して、社債権者からも支払猶予の合意を取り付けなければなりません。こちらは個別交渉となるので、かなり骨の折れる作業になると思います。
果たして、日本エスコンが、事業再生ADRの成功事例のひとつになるのか、今後の推移を見守っていきたいと思います。