中国の債権における時効制度は日本の商業債権5年、一般民事債権10年のような長い時効ではなく、普段2年間しかない短い時効なので、権利を消滅させないよう、中国の時効制度に十分に留意する必要があります。

1.時効期間の計算

 債権の種類により、時効期間が異なります。通常は2年間とします。時効は権利が侵害されたと知った日、または知り得るべき日から起算します。

2.時効期間満了の結果

 時効が満了した時点で、当然、債権者は勝訴の権利を失います。ただ、債務者が自発的に債務を履行することは構いません。

3.時効を中断させる実務

a.債務者に履行に同意する書面を要求

 もし債務者が債務の履行に同意すれば、同意の承諾を受けた日から時効が中断します。

 実務的に以下の対応をしています。

●債務者との間に債務履行に関する覚書を締結する。
●債務者に債務履行計画書を提出させるなど

注意すべき事項:
債権金額と承諾日などの記載を明確にしておくこと。

b.債務履行の要求通知を発送

 債務者に債務を履行するよう、要求するだけで時効を中断させることができます。

 実務的に以下の対応をしています。

●履行通知書留を送ります。
 中国では、日本のような内容証明郵便制度がありません。したがって、郵便局を通じて債務者に履行通知を送付し、郵便局から履行通知が届いたとの受領済み証明(中国語は「回執」)を受けることしかできません。しかし確かに受領したかどうかについてリスクがあります。

●履行通知公正証書を送ります。
 このリスクを回避するために、公証人により公正証書の発行を受ける方法が一案です。現在、北京においてこのような公正証書を利用する場合、1部につき1000人民元の料金が発生します。その上、債務者がこのような公正証明を受けた郵便物を受領しないケースが実際には多く、やはりこの場合にも、債権者は郵便局から郵便物の受領済み証明を受領することができません。この点について、北京市では時効の中断に該当すると解釈されていますが、地方により異なる見解も見受けられます。

注意すべき事項
 将来万一法廷で争うときに、立証の責任は債権者であり、自分が要求した事実を如何に証明するかがポイントとなります。

c.訴訟を提起する

 実務的に以下の対応をしています。

●時効期間の満了が目前に迫っても、債務者がなかなか返済しようとしない場合、訴訟を提起することも時効を中断させるための方法の一つです。また仮に、債権者が提起した訴訟を取り下げても時効の中断に影響はありません。
●裁判所に支払命令の発行を申請する方法。

4.時効満了後の救済

 実務的に以下の対応をしています。

●債務確認のサインを求める。
 債務者に請求通知書を発行し、債務者がこれにサインをすれば、債務に対する確認とみなされ、時効が債務者のサインした日から起算することができます。

●返済に関する新たな合意を締結する。
 債務者と債務返済に関する覚書などの書類を締結します。これは当事者間の債務債権に対する修正であり、新たな債権が形成されとみなされ、時効を改めて計算することができます。

中国事業推進室長 宋煒

プロフィール
 宋煒 、経営学博士(横浜国立大学卒)、中国弁護士、2002年から日系企業の経営・法律の顧問を担当しています。 2006年、中国司法省認定の全国優秀弁護士事務所である煒衡(イコウ)弁護士事務所に入り、2007年、中国弁護士資格を取得し、2008年、日中弁護士事務所の戦略提携により、弁護士法人ALGに移動しました。