こんにちは。長谷川です。
 7月の三連休も終わり、いよいよ8月が射程圏内に入ってきましたね。うちは夏休みが8月の10日の週なので、8月が近くなるとやはりうれしい♪です。
 司法試験受験時代は(←いつの話?)、この時期はちょうど論文試験が終わった後で、完全にダラけモード突入でした。そして10月まで一切勉強せずにダラダラ生活・・・。
 その名残か、どうしてもこの時期は(いつも?)ウダウダしやすくなっています。だから、余計、8月が待ち遠しいのです。

 ・・・さてさて、前回の告知通り、今日は非常に興味深いICC(国際商業会議所)の仲裁判断を紹介致します。

 これはエジプトの会社とユーゴスラビアの会社の間の取引を巡って問題になった事案です。(ICC 国際仲裁裁判所 1989年、事件番号6281号)
 まず、売買契約当時、両国ともについて、ウイーン条約には加盟していませんでした。(但し、仲裁判断時には、両国ともについてウイーン条約は加盟していました。)
 次に、売買契約書には、仲裁合意はあったものの、準拠法についての定めはありませんでした。
 その為、ICCは仲裁規則等に基づいて売り主の国の法であるユーゴスラビア法を準拠法としました。その上で、ICC規則にのっとり、契約条項及び関連する取引慣習を考慮すると述べ、「取引慣習を決定する元としてはウイーン条約が最も優れており、その点は、当事者双方の国がウイーン条約に加盟していなくても同様である」という理由から、ユーゴスラビア法とウイーン条約を比較した上で、ユーゴスラビア法による解決ではなく、ウイーン条約適用により本件を解決したのです。

 ・・・あっさり書いてしまいましたけど、この内容って、ウイーン条約の適用範囲をもの凄く広げている判断ですよね。
 つまりこの仲裁判断は、本来なら、法的には適用されるはずのない非加盟国同士の契約に、「取引慣習が何かを考える上で、ウイーン条約が最も取引慣習を表しているから」という理由でウイーン条約を適用しているわけです。

 この判断の射程範囲がどの程度のものなのか、また、仲裁判断が下された時点では当事者双方の国が加盟国になっていたという点がどの程度この判断に影響しているのか等は、正直分かりません。
 しかしこの判断が、よりにもよって、ICCの仲裁判断という、影響力がとても大きい形式で出されているという点が、本当にびっくりな事実なのです。
 仮にこの理屈が他の事案にも通用されうるというのであれば、そもそも加盟国/非加盟国の線引きも意味が無くなってしまうのではないでしょうか。
 また判断が出された当時、当事者両国が加盟国であったという点が大きな影響を与えているというのであれば、今回、日本がウイーン条約加盟国になったことで、加盟前から継続的に行っていた売買取引についても、「取引慣習」という名の下に、ウイーン条約が適用される余地が出てくるわけですよね。

 そうすると、ウイーン条約適用を免れたいときには、適用排除合意をするだけではなく、「取引慣習」として何を考慮するのかという点もはっきりさせておくべきなのか、或いは、他にも何らかの制限をかけるべきなのか、結構、悩ましい話になってきます。

 国際取引の多い会社さん、ウイーン条約適用対象の売買契約を締結される際には、是非、この点について、考慮してみてくださいね。(そして、できれば、どういう形式で契約書を作成されたのか、情報、下さいね。←他力本願)

弁護士 長谷川桃