いよいよ、8月3日の東京地裁を最初として裁判員裁判の公判が開かれていきます。企業の経営者にとっては、自分が裁判員に選出されている場合のみならず、従業員の方が裁判員に選出されている場合にも係わってきますから、裁判員制度の概要について知っておいても損はないと思われます。経営者の方が係わってくる部分を中心に見ていきます。
裁判員裁判の対象事件は、殺人、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死などの事件であります。これらに関する事件が起訴されると、裁判員の選定がなされます。裁判員は毎年、裁判員候補者名簿が作成され、その中から選ばれます。裁判員は、原則として辞退することができませんが、一定の場合には、辞退することができます。
企業の経営者に関係があるのは、重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがある」場合でしょう。これは、どのような場合なのでしょうか。裁判所が公表しているところによると、個々のケースごとに、裁判所が、その用務の重要性、自ら行うことの必要性、著しい損害が生じる可能性等を考慮して、裁判員の仕事を行うことが困難であるかどうかを検討し、裁判員を辞退することを認めるかどうかを判断することになるそうです。要は、具体的にみて見ないと何とも言えないということでしょう。
会社の社長であるからといって、それだけで辞退できることにならないことは間違いありませんので、具体的にどのような支障が生じるのか(代替性がない、その日を動かすことができないなど)を説明して、最終的には裁判所に判断してもらう必要があります。なお、裁判所としても、国民の負担ができるだけ少ない制度にしたいと考えているようですから、柔軟な対応をしてくれるものと私は信じています。
さて、企業の経営者にとって、従業員が裁判員に採用された場合、いくつか問題点が出てきます、まず、休暇との関係を見ていきます。
審理期間は、通常、3日程度とされていますから、従業員が3日程度いなくなってしまうわけで、相当の覚悟がいることになります。
3日で終わればいいですが、審理が長引くと、その時点で打ち切りにして終わり、ということにはせず、きちんと延長して審理するというのですから(まあ、そうしてくれないと怖いですが)、3日を越えてその従業員が不在になるおそれがあります。ですから、不在中の処理をどうするか、しっかりと対策をしておく必要があります。
期間が延びたので、自由参加になり、辞退は自由になる、ということも一切ありません。辞退事由に該当しない限り、延長した期間についての辞退も認められません。
会社にとって、従業員が長期間休まれてしまっては、その間の対応をどうするか、事前に対策を練っておく必要があります。
そこで、就業規則などで、裁判員候補者名簿記載通知を受けたこと、裁判員候補者として呼出しを受けたこと、裁判員や補充裁判員として呼出しを受けたことを報告させるようにしておくと良いのではないでしょうか。
この報告させることが守秘義務に反しないか(裁判員法101条)問題となりますが、会社内で秘密を守れば、この程度であれば許されると考えられています。
では、裁判員のために休暇を利用した場合の扱い、また、守秘義務(感想をどの程度まで聞いていいのか)などについて、次回、説明していきたいと思います。
弁護士 松木隆佳