1.大量生産モデルと多品種少量生産モデル

 強いアメリカを象徴する自動車産業の覇者であったGMが経営破綻したことは周知のとおりです。
 この事件がきっかけとなって日米の自動車産業の違いについて興味がわき、ちょっと調べてみたところ、おもしろい相違点が分かりました。

 アメリカの自動車産業は、基本的に大量生産型のアプローチを基本とする製品開発アプローチをとってきたのに対し、日本の自動車産業は、早くから多品種少量生産型の開発アプローチをとってきたそうなのです。
 普通に考えれば、大量生産型のほうが製品開発のアプローチとしては効率的なはずですが、実際には日本の自動車産業のほうが多品種少量生産型のアプローチをとってきたにもかかわらず、ずっと効率的な製品開発を行っていたようです。つまり、アメリカの自動車メーカーが1種類のクルマを10年間くらい大量生産し続けている間に、日本は何種類ものクルマを生産し、かつ4年ごとにモデルチェンジさえしていたそうです。

 アメリカ型経営の何が問題だったのでしょうか。また、日本は如何にして多品種少量生産という一見すると非効率な生産スタイルで効率的な開発を実現することができたのでしょうか。

2.弱いリーダーシップのアメリカ、強いリーダーシップの日本

 意外に思われるかもしれませんが、日米の製品開発アプローチの違いを一言で表現すれば、弱いリーダーシップのアメリカと、強いリーダーシップの日本ということになります。

 第1に、アメリカでは、製品開発部門のリーダーには、開発工程に参加するチームメンバーの協力を引き出すためのコーディネーター的な権限・役割しかないそうです。アメリカの製品開発の現場では、対立を嫌うからです。したがって、アメリカのリーダーシップ・スタイルは、職場の仲間の調整役です。
 これに対し、日本では、主査と呼ばれる人が開発のリーダーとなり、強いリーダーシップでチームを引っ張っていきます。しかも、この主査の経験者は、多くの日本の自動車メーカーでは、将来の役員クラスの人材を輩出する出世コースだとか。将来役員になるような人材が主査になるわけですから、チームメンバーも気が引き締まりますよね。

 第2に、アメリカの自動車メーカーでは、前述したとおり、対立を嫌いますので、重要事項の意思決定が先送りになる傾向が強いそうです。
 これに対し、日本では、開発プロセスの最初の段階で対立をおそれず徹底的に討議しておくそうです。そして、ひとたび決定したら、方針がぶれないように、決まったことを忠実に遂行していくという。

 第3に、アメリカでは、大量生産の工程が流れ作業になっているので、前工程の終了をまって次の工程が開始されるという仕組みです。伝統的な生産工程ですね。  これに対し、日本では、時間を無駄にしないよう、各作業工程が密に連携をとって先の工程の終了を待たずに、それぞれの工程が同時進行して作業を行うという手法を確立していたそうです。

3.必要は発明の母

 日本では、消費者の多様なニーズに応えるため、早くから多品種少量生産型に切り替えています。
 しかし、ひとつのクルマを大量に生産するよりも、いろいろな種類のクルマを少しずつ生産する方がどう考えたって非効率です。
 目の前に立ちはだかる多品種少量生産の非効率性に対して正面から取り組み、却って大量生産型のアプローチを採用しているアメリカの自動車メーカーよりも、早い納期で次々と開発する手法を編み出してしまったわけです。結果、日本の生産プロセスのほうがずっと効率的なものとなってしまいました。

 ところで、この話から学べる教訓は2つあります。
 1つは、高いハードルに挑むチャレンジ精神です。多品種少量生産となると、当然効率性を犠牲にしなければならないと考えがちです。しかし、日本の自動車メーカーは、甘えませんでした。多品種少量生産を、大量生産よりも効率的にやってしまったんです。はじめから、「できない」と決めつけずにできる方法を考える。このような姿勢は、私たちも見習わなければなりません。

 もう1つの教訓は、文化などという固定観念がいかに当てにならないか、ということです。日本の自動車メーカーのリーダーシップは、私たちの常識に従えば、むしろアメリカのほうがしっくりきます。ところが、アメリカの開発リーダーのほうが対立を嫌い調整役に徹していたなんて誰が想像できたでしょうか。皮肉にもアメリカのほうがウエットな経営をしており、日本的な気がします。最近だと、成果主義の導入に対して、アメリカでは通用しても日本には馴染まないとか、すぐに弱音が聞こえてきますが、これも当てにならない愚痴であることがわかります。

 それぞれの会社にも社風とか企業文化があると言われますが、それにもあまり振り回されない方がいいでしょう。
 文化なんて関係ない。不可能に見える課題にチャレンジし、企業としてやるべきことをやる……。ただ、それだけだと思います。
 日本の自動車産業から大いに学びたいものです。