こんにちは、弁護士の森山です。
事業承継の対策として、中小企業投資育成株式会社を利用する方法が注目されているので、今回はそれについてご紹介しようと思います。
まず、中小企業投資育成株式会社は、中小企業投資育成株式会社法という法律に基づいて投資業務を実施する政策実施機関として設立された会社です。
中小企業投資育成株式会社は、投資業務を実施する会社ではあるのですが、民間のベンチャーキャピタルとは異なり、具体的な上場計画のない企業でも安定配当を実施できる企業であれば利用できます。
さて、具体的な事業承継への利用方法についてですが、まず、持ち株比率の問題を解決する方法としての中小企業投資育成株式会社の利用が注目されています。
例えば、創業者である社長に適切な親族の後継者がおらず、親族以外の役員を後継者にしたいが、創業者社長が株式の大部分を保有している場合について考えてみましょう。
御存知のとおり、中小企業の事業承継において、後継者に安定的な経営をさせるためには、株式を後継者に集中させておくことが重要です。そうすると、親族ではない役員を後継者にする場合、その役員が会社の株式を買い取る必要が出てきます。しかし、同族でない役員はもともとはサラリーマンですから、経営を安定させるほどの株式を買い取るのは資金的には困難です。そこで、この負担を軽減するために、中小企業投資育成会社を使う方法があります。
数字をあげて説明しましょう。例えば、創業者の社長が会社の株式の80%を保有しており、親族でない役員が20%の株式を保有していたとします。この場合、安定的な会社の運営のためには、株式の2/3を超える株式を保有しておきたいところなので、親族でない役員は創業者社長から約47%分の株式を取得し、持ち株比率を約67%にする必要があります。しかし、株価にもよるのでしょうが、会社の半分近い株式を買い取るとなると多額の資金が必要になってきます。
そこで、その負担軽減のため、第三者割当増資を行い、投資育成株式会社にその株式を引き受けてもらうのです。
前述の創業者社長の持株比率80%、親族以外の後継者の持株比率20%の会社の場合、投資育成会社が持ち株比率40%になる形で増資をすると、全体の持株比率は、社長48%、親族以外の後継者12%となります。このような株主構成になれば、投資育成会社の保有する40%の株式については、安定株主として除外することができるので、後継者は、社長分と後継者の所有分60%のうち2/3、すなわち40%を超える株式を取得すれば安定的な会社運営が可能となります。そうすると、創業者社長から28%を超える形で株式を取得すれば足りる形になるので、先程の47%を取得しなければならないことに比べれば、だいぶ負担が軽くなる形を作れます。
このような説明をすると、投資育成会社が株主として、何か言ってくることを心配なさる方もいらっしゃるかもしれませんが、投資育成会社は、投資先企業の経営の自主性を尊重することが設立以来の基本方針だそうで、安定的な配当ができており、かつ、法令が遵守されていれば経営に口だしをしてくることはないようです。
弁護士 森山弘茂