こんにちは。長谷川です。
さて、前回「次回は、ウイーン売買条約の具体的内容について書きますね~」と告知したので、今日は少し細かくウイーン条約に立ち入って書いていきますね・・・って、オオッ?!
ボスがかなり丁寧にフォローしてくれている・・・。
えーっと、・・・ふむふむ・・・。条約の具体的内容があって、実務への影響の話があって・・・と。
そうすると、この流れで引き続き書くなら、仲裁例/各国判例から見る適用排除合意の具体的内容って感じかなぁ。
うん、それにしよう。
だいぶ先に書こうと思っていた内容なので、ちょっと検討が薄くなってしまいますが、そこはご容赦願いますね。
さて、ボスも「必須」と述べている適用排除特約ですが、実は、国際仲裁判断例や加盟国における判決例を見ると、結構、問題になっている例が多いみたいです。
具体的には、準拠法合意でもってウイーン条約適用排除の意思表示と捉えられるのか否か問題になっているケースが散見されるんです。(言い換えると、どういう意思表示があれば、適用排除合意があったと言えるのかという問題ですね。)
実務家である私たちの感覚では、この辺のことについては、正直あまり悩みが生じません。(と思います。「排除すればいいじゃない」っていう感じです。)
でも、判例等が散見されるということは、この点についての一般の方々の理解が、私たち実務家の感覚とは違っているということなわけですよね。
より具体的に説明しますね。
ウイーン条約の加盟国A国の会社と、同じく加盟国B国の会社が、物品売買契約を締結することになりました。でも、色々話し合った結果、今回の取引には、ウイーン条約の適用を排除して、A国の国内法(商法)を準拠法とすることにしました。
そして契約書作成です。当事者は、事前の協議に基づき、契約書に「この売買契約は、A国の国内法を準拠法とする」と記載しました。他の記載事項も事前の協議通りバッチリ記載しています。
無事契約締結終了。売買取引きも滞りなく終了・・・、だったら良かったんですが、残念ながらそうはなりませんでした。
トラブルが生じ、そしてその解決の基準となる法律、つまり準拠法が争われたのです。
契約書にきちんと「準拠法はA国の国内法」って書いてあるのになぜでしょう?
はい、簡単です。「準拠法はA国の国内法」っていう準拠法合意だけではウイーン条約の適用排除合意としては足りないんです。(国際仲裁判断例や加盟国における判例の大半も同様の理解です。)
つまり、条約に加盟した以上、その条約自体が、A国の国内法の一部になっていますので、「A国の国内法」としか規定していないと、結局はA国の国内法であるウイーン条約が適用されてしまうんです。
この辺りの話の流れは、私たち実務家からすると、当たり前の話で、余り悩みが生じない話ではないかなあと思うんですが、仲裁判断例等では、この点が問題になった事例が結構でてきます。(例として、デュッセルドルフ高等地方裁判所1993年1月8日判決、ケルン高等地方裁判所1994年2月22日判決、ハンブルグ高等地方裁判所1995年6月9日判決、国際商業会議所(ICC)1993年仲裁判断事件番号103号、ハンガリー国際商業会議所1995年12月5日仲裁判断等々)。
つまり、当事者のどちらか一方の国の国内法について準拠法合意をすれば、ウイーン条約の適用排除合意をしたことになると勘違いしてしまう当事者が結構いるということですよね。
声を大にして言いますね。
ウイーン条約の適用を排除したいと思ったら、準拠法の合意だけでは足りません。
明確に「ウイーン条約の適用を排除する」とか「ウイーン条約を適用しない」と規定し、かつ、その上で準拠法合意を規定して下さい。
ここまでは、今後行う売買取引についてウイーン条約適用排除するために、最低限必要です。
但し、実は、これでもまだ万全ではありません。ウイーン条約発効以前に締結した契約についても、ウイーン条約が適用されてしまう可能性があるんです。つまり、継続的取引関係がある会社に関しては、ウイーン条約発効以前の取引についても、手当を施さなければならないかも!?
なので、次回は、そのあたりが問題になった事例を引用しながら、検討してみたいと思います(多分。。。)。
弁護士 長谷川桃