みなさんは、コカ・コーラとペプシコーラとどちらが好みでしょうか。私の周りにも、どちらが好みかで論争を続けている方々がいらっしゃいます。私は、炭酸飲料そのものが苦手なので、どちらでもいいことと思い、聞いておりますが。。。
さて、コカ・コーラの作り方をご存知でしょうか。おそらく、正確な製造工程については、誰も知らないのではないでしょうか。コカ・コーラ製品の成分表示を見ても、香料の成分が明示されていないくらいですから。
私の聞いたところによると、コカ・コーラの作り方は、会社内において、従業員も知らないということです。各部分の作り方ぐらいは知っているのかもしれませんが、最初から最後までの作り方を知っているのは、3名の重役のみであるということです。そして、この3名が死亡してしまうと誰も作り方がわからなくなってしまうため、この3名は、同じ飛行機に乗ってはいけないというルールがあるそうです。
今回は、なぜ、コカ・コーラがこのようなことをしているのか、という観点から、特許法と不正競争防止法を見てみたいと思います。
まず、特許権です。特許法1条には「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」とあります。このように、発明を保護する制度で、発明者に発明を公開させる代償として特許権という排他的独占権を与えるのです。この特許権の欠点は、発明を公開してしまうということなのでしょう。確かに、排他的独占権を得ることができますから、公開してしまうことによる損失は、その意味ではないのかもしれません。しかし、特許権の存続期間が、特許出願の日から20年をもって終了する(特許法67条)と定められていることが問題なのです。
コカ・コーラを特許登録してしまっては、20年で他社が事由に同じレシピで作れるようになってしまうのです。そこで、コカ・コーラについては特許登録していないものと考えられます。
このように周知されてしまう問題点や期間制限があるという問題点を克服する方法として、不正競争防止法による営業秘密として保護していく方法が考えられます。営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業の活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(不正競争防止法2条6項)をいいます。この営業秘密にあたると、これを侵害、または侵害するおそれがある者に対し、差止請求することができます。
ただ、この営業秘密として保護されるとしても、差止めをする際、裁判所に訴えを提起して行う必要があります。そして、日本において、裁判は公開が原則とされています。確かに、秘密保護のための閲覧制限(民訴法92条)の制度はありますが、これで完璧というわけではありません。裁判で主張・立証を尽くしていくと、かえって、営業秘密を公開していくことになってしまうおそれがあります。これを防止するために、あいまいにしか主張・立証しないと、裁判で負けてしまうこともあるでしょう。
このように、特許権にも問題があり、不正競争防止法による営業秘密としての保護にも限界があるということで、コカ・コーラは、その作り方を最大限に秘匿すべく、3名にしか作り方を知らせていないのでしょう。作り方をメモすることすら流出の危険性があるからできません。
このような方法は優れているといえますが、この3名をよほど信用していないとできません。また、この3名が時期を同じくして亡くなってしまうともはや誰ももう作れなくなってしまうというリスクもあります。
皆様の会社でも、営業上の秘密をどのようにして守っていくのか、考えて見ると面白いのではないでしょうか。コカ・コーラのような方法もいいかと思いますが、中小企業では、これほどまでの情報を教えられる信頼できる3名を確保するのが大変かもしれません。また、これを1名や2名にすると、もし亡くなってしまった時などに、もはや対処不能になるというリスクもあります。このようなことを比較しながら皆様の会社にとって良い策を探されてみてはいかがでしょうか。特許権や営業秘密のほかにも知的財産に関する法律、対処方法はたくさんありますので、その折はぜひご相談ください。
弁護士 松木隆佳