1.倒産件数の推移
ご存じのとおり、2000年4月に介護保険法が施行され、これをビジネス・チャンスと捉えて、老人福祉事業市場への新規参入が増えました。
新しい法律が新たなビジネス・チャンスを産み、市場を拡大させた一例です。また、高齢化という日本社会の将来を考えると、今後益々市場の拡大が期待される分野でもあります。
そこで、2001年以降の老人福祉事業の倒産傾向を件数を追って確認したいと思います。
帝国データバンク発行の「帝国タイムス」(2009年6月15日、第13306号)を参考に、2001年から2008年までの老人福祉事業者の倒産件数を見てみましょう。
老人福祉事業者の倒産件数
2001年 | 2件 |
2002年 | 2件 |
2003年 | 2件 |
2004年 | 4件 |
2005年 | 6件 |
2006年 | 13件 |
2007年 | 21件 |
2008年 | 26件 |
2.改正介護保険法が倒産に拍車?
前記の倒産件数の推移を見て以下の事実を指摘できます。
① 2001年から2008年まで倒産件数は増加傾向にある。
② 2001年から2005年までの倒産件数は1桁台であったにもかからず、2006年には2桁台になり、しかも前年の倒産件数の2倍以上を記録した。
③ 2004年以降、倒産件数は毎年確実に増加し、昨年度は過去最高となった。
まず、倒産件数が2倍以上に増え、ついに2桁台に突入した2006年度に何があったのでしょう。
実は、同年4月に介護保険法が改正されております。その内容は、
① 介護報酬の引き下げ
② 施設サービスにおける居住費用・食費が介護保険給付の対象から除外
という、老人福祉事業者にとっては厳しい改正となりました。
この改正が老人福祉事業者の倒産件数を飛躍的に増加させたという議論も当然出てきます。
もし、この論調が正しいとすると、法改正に対するリスク管理が、今後重要なビジネス・マターになってきます。特に、新しい分野で規制が流動的な場合には注意が必要です。
3.倒産件数を分析するにあたっての注意事項
ところで、前記の倒産件数の推移を見る際に、注意すべき点があります。
すなわち、この数値は、あくまでも倒産件数であって倒産率ではないという点です。
手元に資料がないので確実なことは言えませんが、たとえ倒産件数が増えても、それに比例して事業者数も増えていれば、必ずしも老人福祉事業が倒産傾向にあると見るのは早計です。
例えば、2001年から2003年度までの倒産件数は、毎年2件で横ばいですが、この時期は新規参入が相次いだと思われますので、事業者数は大きく増加した可能性があります。そうすると、むしろ、この期間は、倒産率は低下しているかもしれません。
もっとも、そうだとしても、2005年から2006年の倒産件数の倍増は、やはり法改正が大きな原因になっていると見るのが合理的だと思います。介護保険法施行から6年後に事業者数が突然倍増するのはあまりにも不自然だからです。
したがって、この倒産件数の推移を見る限り、法改正が原因で倒産に拍車をかけていると見るのは説得力があります。
コンプライアンスが叫ばれる昨今ですが、法改正も重要なビジネス・マターですので、こちらのリスク管理も怠らないようにする必要があるでしょう。