6月に入り、雨の日が多くなり、気分が優れないことが多くなってきたのではないでしょうか。

 そんな中の労働者にとっての楽しみの一つはボーナスなのではないでしょうか。他方、会社経営者にとっては、近時の不景気の中、ボーナスを支給することは更なる悩みの種なのかもしれませんね。

 最近、ボーナスの支給を何とかすべく、会社の製品を渡してこれに代えようとするなど、四苦八苦している企業も多いのではないでしょうか。このようなボーナスの現物支給が許されるかどうかは、賞与の法的性質と関連して問題となってきます。

 賃金とは、労働基準法11条によれば、「賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのもの」を言うそうです。要は、従業員が働いたことに対する報酬として支払うもの全てということですね。

 そして、この賃金に当たるとすると、その支払いは全て現金でしなければなりません(労基法24条)。なお、銀行振込みなど一定の方法は労働者の同意がある場合などに許されています(労基規則7の2)。

 では、ボーナスは賃金なのでしょうか。
 ボーナス(賞与)を支払うか、支払わないか、それは基本的に使用者の裁量で自由に決められるというのが建前です。そうすると、恩恵的給付であって、賃金ではないということになるかとも思われます。

 ただし、わが国における賞与は、労働慣行上、労働協約、就業規則、労働契約などで定められていて、一定の基準のとおり支払うこととされていることが多いようです。よくある算定方法として、「基礎額(基本給)×支給率(○カ月分)×出勤率」の計算式があります。

 このように、ボーナスの支給基準が明確に、きちんと定められている場合には、使用者の裁量で支給・不支給やその額等を決められるものではなく、賃金の一部を構成するということになると思われます。

 そうすると、ボーナスにつき、現物支給をすることは一切できないことになってしまいそうです。
 ただ、ここからは私見ですが、ボーナスには、労働の対償として支払っているという側面のほか、労働者の生活保障のために支払っている側面や労働者の意欲を掻き立てるために支払っている側面があると思われます。

 最初に述べた賃金の定義からすれば、労働の対償として支払っている側面に該当する部分は賃金であり、その他の側面の部分は賃金ではないということになります。

 したがいまして、ボーナスは、労働の対償として支払っている金額については現金支給(または銀行振込みなど)しなければならないことになりますが、それ以外の部分に該当する金額については現物支給することは許されると思われます。
 しかし、普通は、労働の対償部分とそれ以外の部分について金額がいくらであるかなど、明確に定めていないと思われます。ですから、紛争を避けるためには、このようなことはしない方がいいと思います。

 では、現物支給するためにはどうするか、ということですが、ボーナスについて、使用者の裁量で定められる部分を大きくしておくことで、現物支給することができると思われます。すなわち、裁量を大きくしておけば、裁量で決められない部分は現金支給しなければなりませんが、裁量で決められる部分は、前述のように賃金とはならないものですから、現物支給をすることができることになります。

 労使間の労働協約等において、プラスアルファで、現物支給される感覚を与えるような規定の仕方をしておくと、労働者の意欲を掻き立て、良いのかもしれません。ただ、給与の現物支給という法律上の原則の免脱と疑われないよう、規定ぶりには細心の注意が必要です。

 なお、給料やボーナスで自社製品を強制的に買わせることは違法になります。ただし、買うように勧奨すること自体は許されますが、ことさら購入しなかったことを理由に昇進、昇格に響くような扱いをすれば当然、問題になりますので注意しましょう。

弁護士 松木隆佳