こんにちは、弁護士の森山です。

 今回は前回に引き続き、昨年施行された中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「経営承継円滑化法」といいます)の①民法の特例(遺留分に関するもの)について、もう少し説明させていただこうと思います。

 前回、従前の遺留分制度が事業承継に及ぼす障害等を紹介し、除外合意、固定合意について書きましたが、これらについてもう少し説明してみようと思います。
 (前回の記事はこちら:中小企業の事業承継(1)

1.除外合意

 除外合意は、自社株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる制度です。       

 前回書いたとおり、後継者が先代経営者から贈与により取得した株式は、その贈与時期にかかわらず特別受益として、遺留分算定基礎財産に算入され、遺留分減殺請求の対象となってしまいます。

 しかし、そうなれば、前回も書いたとおり、贈与の効力は遺留分減殺請求により失効することになり、株式が相続人間で分散して保有されることとなり、事業承継の対策が困難になります。

 そこで、これらの株式を除外合意の対象とすることにより、遺留分算定基礎財産に算入されないようにすることができるようになるため、遺留分減殺請求の対象とならなくなります。

 そうすると、この除外合意の制度を使うことにより、遺留分減殺請求による株式の相続人間分散保有という不都合な結果は防止できることになります。

2.固定合意

 固定合意は、生前贈与株式等の評価額を予め固定できる制度です。

 後継者が、先代経営者から贈与等により取得した株式等の遺留分算定基礎財産に算入される価額は、相続開始時の価額とされています。

 そうすると例えば、後継者が贈与を受けた際、贈与を受けた自社株式の総額が2000万円で、その後、後継者が会社の経営につき血の滲むような努力や苦労をして、やっとの思いで贈与時に2000万円であった自社株式の価値を1億円に上げたとしましょう。その場合、その1億円が遺留分算定基礎財産に算入されることになります。

 確かに、後継者なのだから、自社が発展するように努力するのは当たり前だろ!という話はあるのかもしれません。しかし、それにより何の苦労も努力もしなかった後継者以外の相続人が1億円につき遺留分を主張して多大な利益を得たり、株式以外にめぼしい財産がない場合には株式を他の相続人にも渡さざるを得なくなるようになるのでは、後継者はやりきれない上、結局株式は分散保有されることになってしまいます。

 そこで、株式等を固定合意の対象にすれば、遺留分算定基礎財産に算入すべき財産をもとの2000万円に固定することができることになるため、上記のような後継者にとってのデメリットは防止できることになり、後継者は経営に専念できるので、これも、事業承継を促進する制度です。

 付随合意等については、また次回に。

弁護士 森山弘茂