はじめまして、弁護士の森山です。
 今日は、昨年施行された中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「経営承継円滑化法」といいます)について、少し紹介しようと思います。

 事業承継に興味のある方は、すでにご存じだと思いますが、経営承継円滑化法の内容は、➀民法の特例(遺留分に関するもの)➁金融支援③相続税の課税についての措置の3つの柱からなっています。今回は、➀について考えてみましょう。

 民法は、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分すなわち最低限の相続の権利を認めています(民法1028条)。そして、遺留分権利者等は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈や贈与の減殺を請求できます(民法1031条)。

 そうすると、被相続人すなわち先代経営者の財産価値の大部分が自社株式である場合、遺留分算定の基礎になる財産の多くが自社株式となってしまうため、相続の際に後継者以外の相続人の遺留分を侵害することになってしまいます。すなわち、被相続人である先代経営者が後継者に株式を生前贈与してもこれが特別受益とされ遺留分減殺請求の対象となってしまいます。なお、特別受益は、共同相続人中に被相続人から遺贈や贈与を受けた者があるときは、相続分を定める際、贈与や遺贈の金額が考慮される制度です(民法903条)。また、遺言で後継者に株式を遺贈しても遺留分減殺請求されてしまいます。このように、生前贈与にしても遺贈にしてもそれらの効力は遺留分減殺請求により失効することになり、株式が相続人間で分散して所有されることとなり、事業承継の対策が困難になります。

 さらに、このような弊害を防止するため、後継者以外の相続人に遺留分を事前放棄させることも可能ですが、これには相続人が個別に家庭裁判所の許可を得ることが必要で、後継者以外の相続人の協力を取りつけることが難しい(後継者以外の者にとっては何のメリットもないのに手続きが面倒)と言われていました。その上、遺留分減殺請求における財産の評価の時期については、相続開始時とする判例があるため、先代生存中に後継者が頑張って会社を成長させて株価を上げると、先代が亡くなり相続の際、後継者以外の者が遺留分減殺により多大な利益を得ることとなり、後継者の経営意欲をそぐとも言われていました。

 そこで、経営承継円滑化法では、遺留分に関する民法の特例を定めています。

 これは、遺留分権利者全員の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可を要件に、除外合意すなわち自社株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる、また、固定合意すなわち生前贈与株式等の評価額を予め固定できる制度です。さらに、オプションとして付随合意すなわち非後継者が贈与を受けた財産も遺留分算定基礎財産から除外できる制度もでき、遺留分権利者全員の合意ができやすいよう工夫もされています。

 これらの内容については、また次回に紹介しようと思います。

弁護士 森山弘茂