今回は、主にコンピュータ・ソフトウェアそのほかのビジネス上の発明について発明者を保護する制度である「ビジネスモデル特許」をご紹介し、その概要を説明したいと思います。
1.ビジネスモデル特許の定義
「ビジネスモデル特許」とは、必ずしも万国共通の定義付けが行われているわけではありませんが、我が国における一般的な理解では、コンピュータやネットワークを使ってビジネスのやり方を実現する方法や装置に関する発明を対象とする特許をいうこととされています。
ビジネスモデル特許が注目を集めることとなった背景には、インターネット技術を中心とした情報技術の発達があります。
ソフトウェアやネットワーク技術の進歩により、伝統的な意味での特許とは関係の薄かった広告・流通・金融などのサービス分野において、汎用のコンピュータやインターネット等のネットワークを利用して、ビジネス上のアイディア(ビジネスモデル)を実現しようとする動きが目立ってきたのです。
2.ビジネスモデル特許の成立要件
では、どのような発明が、具体的にビジネスモデルとして認定されうるのでしょうか。
特許法によれば、特許による保護の対象となるのは、「産業上利用することができる発明」です。このうち「発明」とは、我が国においては、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。
ビジネスモデル特許において問題となるのは、ビジネス上のアイディアを含む発明(「ビジネス関連発明」が「自然法則を利用」しているといえるかどうかになります。
この点、ソフトウェアにしたがってハードウェア資源(たとえば、コンピュータの演算装置や記憶装置等)を用いることによって実現される特別の機能、またはソフトウェアによって実行される、それらハードウェア資源を用いる手段が具体的に実現されるならば、ソフトウェアは「自然法則を利用している」ということができ、特許法上の「発明」に該当し、特許法による保護の対象となりうるとされています。つまり、特許庁への出願を経て成立したビジネスモデル特許については、当該特許が対象とする方法、装置またはプログラムを、特許権者以外が実施・実現する行為は、特許権の侵害として法的措置(利用差止請求、損害賠償請求等)が認められることになります。
3.ビジネスモデル特許が認められた具体例
上記2の定義からすれば、「自然法則以外の法則(たとえば、経済法則)」、人為的な取り決め(たとえば、ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動にあたるとき、あるいはこれらのみを利用しているとき(ソフトウェアを利用しない、単なる事業の展開方法それ自体)は、その発明は自然法則を利用したものとはいえず、特許法上の「発明」には該当しません。(なお、デザインや商号については、意匠権や商標権という別個の権利で保護されますが、それらの詳細についてはここでは割愛します)
しかし、具体的に認められたビジネスモデル特許は、以下のように、「自然法則を用いているか否か」について微妙なものについても認められることがあるようです。
例1:「インターネットの時限利用課金システム」
発明の内容は、インターネットの利用者に一定期間の利用を提供する対価を受領する方法に関するものです。本件については、ただし、本件の特許に基づいて、インターネットプロバイダや電子マネーの会社に対して提起された使用差止めの仮処分の申立については、差し止め対象企業のシステムは特許発明の全ての構成要素を実施するものではないとして、却下されています(東京地方裁判所)。
例2:「振込み処理システム」
本件は、「振込対象の口座番号で支払人を特定するようにした振込処理のシステム」を発明の内容とするもので、サービスの名称から俗に「パーフェクト特許」とも呼ばれるようです。銀行業務に関する発明であることからビジネスモデル特許として注目を集めました。
例3:「オートカフェ」
発明の内容は「来店した顧客自身が自動食器貸し機に硬貨を入れて、食器を借り、その器に飲食物供給装置から飲食物を入れ、テーブルに運んで飲食する」というものです。
このシステムは、請求項に人間の動作を規定していることから、「自然法則」のみを利用しているのかについて疑問が残る上、従来の自動販売機システムと比較してその進歩性も疑わしい と、講学上は問題点が指摘されていますが、現状のところ特許は成立しており異議申立て等はされていないようです。
例4:「置き菓子管理方式」
近年、オフィスによくおかれるようになった「お菓子ボックス(100円程度支払うとお菓子が購入できるボックス)について、江崎グリコが特許を取得しています。
オフィスグリコでは、賞味期限や在庫水準などを考慮しつつ、利用者にとっていつも違う商品が入っていると感じられるように独自の法則に沿って商品を入れ替えていました。特許取得には新規性が求められるが、オフィスグリコの特許でも、「デジタル値札が付いたスーパーの棚と似ているのではないか」といった指摘を受けつつ、特許庁からの2回の「拒絶」を経て成立にこぎつけたというものです。
上記のとおり、現在の運用をみると、ビジネスモデル特許の概念は必ずしも「ソフトウェア」に限られるものではないようです。
重要でビジネスの中核をなすと思われる発明・サービス等については、ビジネスモデル特許を有効に活用して権利保護につとめると、会社・事業の防衛ないし発展に資すると思われます(かならずしも裁判所に実際に仮処分等を申し立てなくても、特許権が存在することを根拠に、後発の事業者にライセンス契約締結やライセンス料の支払いの交渉を求めるなど、事業の発展も見込むことが可能です)。
具体的な事案につきましては、個別によくご検討・ご相談いただくことが肝要です。