こんにちは。本当は前に書いていたアクセスコントロール規制について今回ご紹介したかったのですが、先日たまたま知財高裁の髙部眞規子判事の講演に行って、そこでのテーマが今度の特許法改正でしたのでそちらをご紹介いたします。

 とりあえずこれをご覧になって下さい。
 http://www.jpo.go.jp/torikumi/kaisei/kaisei2/tokkyohoutou_kaiei_230608.htm

 特許庁のホームページなのですが、誰か気がつきましたか?
 <平成23年3月11日に閣議決定された>
 そうなんですね。あの震災の日に閣議決定されたんです。だからといって何かいわくがあるわけではないと思いますが(何もないと信じたい)。

 施行日は、そのホームページに書いてある通り、平成23年6月8日から1年を超えない範囲で政令が決める日です。まあ、来年の早いうちに確実に施行されますのでこの機会に見てみましょう。全体の俯瞰にはこれ(http://www.jpo.go.jp/torikumi/kaisei/kaisei2/pdf/tokkyohoutou_kaiei_230608/01_gaiyou.pdf)がいいと思うのでそちらをご参照ください。このうち、「2(4)紛争の迅速・効率的な解決のための審判制度の見直し」に関しては結構テクニカルな話で、弁護士や弁理士が分かっていればよいことだと思われます。

 それより、企業の方が興味のあるところは(1)~(3)でしょうね。うち、(3)は簡単な話ですから先に見ておきましょうか。

特許料の減免又は猶予(109条)

 現行の条文は下記のようになっています。

第109条 特許庁長官は、次に掲げる者であつて資力に乏しい者として政令で定める要件に該当する者が、特許料を納付することが困難であると認めるときは、政令で定めるところにより、第107条第1項の規定による第1年から第3年までの各年分の特許料を軽減し若しくは免除し、又はその納付を猶予することができる。

1.その特許発明の発明者又はその相続人
2.その特許発明が第35条第1項の従業者等がした職務発明であつて、契約、勤務規則その他の定めによりあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を承継させることが定められている場合において、その従業者等から特許を受ける権利を承継した使用者等

 今回の改正で、109条は、このように変わりました。

特許庁長官は、特許権の設定を受ける者又は特許権者であつて資力を考慮して政令で定める要件に該当する者が、特許料を納付することが困難であると認めるときは、政令で定めるところにより、第107条第1項の規定による第1年から第10年までの各年分の特許料を軽減し若しくは免除し、又はその納付を猶予することができる。

 多少表現を変えただけのように見えますが、特許料の減免期間が最大3年から10年に延びていますよね。まだ、「政令」ができていないようなので、減免を受ける要件というのが明らかではないのですが、現行の制度であなたの会社が減免を受けられるかはここで分かります・・・特許庁、なかなか便利なものを作ったな(笑)。
 http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/hantei_kani.htm

発明の新規性喪失の例外規定

 まずは現行法。

第30条1項 特許を受ける権利を有する者が試験を行い、刊行物に発表し、電気通信回線を通じて発表し、又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表することにより、第29条第1項各号の一に該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の適用については、同条第1項各号の一に該当するに至らなかつたものとみなす。

 これは少し説明がいるのですが、まず我が国の特許法では、特許出願より前に公開された発明は原則として特許を受けることはできません(29条1項。これを「新規性の喪失」といいます)。しかし、それでは学者が学会で発表したら新規性を喪失して全部特許を受けることができないのか?ということになってしまうので、この30条ができたわけです。

 もっとも、この条文だと、「特許を受ける権利を有する者が試験を行い、刊行物に発表し、電気通信回線を通じて発表し、又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表」した以外のケースは、新規性を喪失しちゃいますね(すなわち原則として特許を受けることはできません)。例えば、学者も研究以外に学生の教育目的のために自分の発明を公表する必要があるようですが、この場合も新規性を喪失してしまいます。他にも、「そこで新規性が喪失されるのはおかしいだろう!」というケースは多々あると思います。

 そこで、平成23年改正では大胆に30条1項を削除してしまいました(他にも手直しがありますが)。すると、発明情報開示後6か月以内に特許出願することで、開示の場を特定の研究集会に限定しなくても、当該発明は特許の対象となるのでした。

 次に⑴のライセンス契約の保護についてですが、特許権者から特許ライセンスを受けていたいわゆるライセンシーは、特許権者であるライセンサーが特許権を第三者に譲渡した場合、当然に特許権を譲り受けた第三者に対して自己の通常実施権を主張することができるようになりました(99条)。これを当然対抗制度と呼んでいるようです。

 従前の条文ですと、対抗要件として登録が必要だったのです。しかし、なかなかライセンサーは登録になんか応じてくれるものではない。

 この話で思い出したのは、賃貸アパートが売られて大家がかわったときの話です。自分の住んでいるアパートやマンションの大家が途中でかわった、という経験をされた方も多いと思いますが、その場合、新しい大家が借主に、「お前に貸した覚えはないので出ていけ!」「賃貸借の登記もないので明渡せ!」なんて言わないですよね。民法的にはいえるはずですが、借地借家法のおかげで言えません。だから、我々は賃貸借の登記をしなくても放り出されずに済んでいるわけです。そもそも、一々登記しなきゃいけないなんてことになったら、当事者は面倒ですし、法務局が大混雑です(笑)。

 しかし、従前の特許法ではこれに近いことをやっていたんですね。特許権者が交代したら、「お前となんかライセンス契約をした覚えはないので、実施するな!」ということが言えたのです。これではあまりにも不便ですので、改正法ではライセンシーを保護すべく登録を不要にしました。

 ⑵の共同研究等の成果に関する発明者の保護についてはいわゆる「冒認出願」にかかわる問題で話が長くなると思いますので、次回にします。

弁護士 太田香清