前回の記事はこちら:新型インフルエンザ対策と労務管理(1)
インフルエンザ流行中なのに事業継続して従業員が罹患。会社は損害賠償義務を負うの?
1.会社の損害賠償責任の有無
会社(事業主)は、従業員が安全に仕事ができる職場環境を提供する義務(安全配慮義務)を負っているというのが、確立した判例法理であり、かかる義務を怠って従業員に損害が発生したら、会社に損害賠償責任が生じることになります。
したがって、会社としてできるインフルエンザ感染の予防ないし拡大対策を怠り、その結果、従業員がインフルエンザに罹患させたといえる場合には、会社に損害賠償義務が発生すると言えます。
しかしながら、現実問題としてにインフルエンザに罹患した従業員が会社に対して損害賠償を請求し、その請求が裁判で認められることは希でしょう。なぜかというと、会社の安全配慮義務違反でその従業員が罹患したのか、その従業員のプライベートな活動中に罹患したのか、判然としない場合がむしろ多いと思われるからです。特に、罹患者が海外渡航歴のある人に限定されず、二次感染も広がりつつある今日、罹患の経路を明らかにすることが難しくなるはずです。
そして、会社が責任を負うのは、あくまでも会社の安全配慮義務違反の結果、従業員がインフルエンザに罹患してしまったという場合に限定されます。
2.会社として取るべき対応策
前述のように、会社の安全配慮義務違反と従業員の新型インフルエンザ罹患との間の因果関係を立証することは困難だと思われるので、会社に損害賠償義務が発生することは少ないと思います。但し、次のような事情がある場合には、会社の安全配慮義務違反の疑いが強まりますので注意が必要です。
➀ 従業員に新型インフルエンザ感染が疑われるような症状が見られたにもかかわらず、「感染したか否かまだ明らかとなっていないから」という理由で、勤務を継続させ、職場内で感染が広がった場合。
→感染が明らかになるまで働かせるのではなく、感染が疑われたら、「感染して”いない”ことが明らか」になるまで休業させるべきです。
➁ インフルエンザの感染が広がっていると見られる地域に従業員が旅行し、その後数日して当該従業員がインフルエンザに罹患したことが判明したが、そのときはすでに遅く、ほかの従業員にも感染が及んでしまった場合。
→なぜこの場合に会社の安全配慮義務が疑われるのかというと、旅行というのは、実は会社がある程度管理できるからです。つまり、旅行を許可制にするのです。旅行を予定している従業員に事前に旅行許可申請書を出させ、危ない地域だと会社が判断した場合には、旅行を許可しないという運用です。実際にこれに着手している会社はあります。
➂ インフルエンザの感染が”広がっていると認められるような地域”で仕事をしている従業員が、マスクを購入しようとしたがどこも完売で購入することができなかったにも関わらず、従業員を仕事に来させ、その結果、通勤途中での感染が疑われる場合。
→もちろん、マスク購入の第一次的責任は従業員にありますが、従業員個人がマスクを確実に手に入れる能力にはおのずと限界があります。感染リスクが高いのに、「感染覚悟で会社に来い」とは言えません。この場合の対処としては、他の従業員の中で多めにマスクを購入している人がいて、それをこの従業員にまわせないか社内で検討してみる必要があるでしょう。また、このような場合に備えて会社である程度購入しておくのもよいでしょう。但し、会社で購入する場合、そのことを全従業員に事前に告知するのは、やめた方がよいと思います。なぜならば、「会社で用意してくれるのならば」ということで、従業員が誰も自費でマスクを購入しなくなるからです。全従業員分のマスクを備蓄しなければならない羽目になります。
ほかにも、様々な事態があり得ると思いますが、ご心配の場合は、専門家に一度ご相談ください。