インフルエンザで臨時休業、給料は支払わなければならないの?

1.事業所の閉鎖と給料支払義務の有無

 新型インフルエンザがついに日本にも上陸しました。

 そして、つい最近、東京都、神奈川県、埼玉県でも発症者が確認され、首都圏での流行も懸念されます。さて、会社としても、心配です。もし、新型インフルエンザが今後も流行し、事業所を一時閉鎖せざるを得なくなった場合、その間営業がストップすることにより莫大な損害が生じる可能性もあります。それだけではなく、出勤していない従業員の給料も補償しなければならないとなると、二重に損害です。従業員の立場からすれば、自分のせいではないので、給料を支払ってほしいところです。では、このように病気の流行で、事業所をやむなく一時閉鎖せざるを得なくなった場合であっても、従業員に給料を支払わなければならないのでしょうか。

 民法536条1項は、

「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」

 と定めています。また、同条2項は、

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」

 と規定しています。

 ここでは、債権者が会社(事業主)で債務者が従業員に当たります。反対給付とは労働の対価である賃金を指しています。したがって、従業員が働けなかったことに関し、会社にも従業員にも責任がなかった場合には、従業員は、給料を受け取ることができないことになります(同条1項)。他方、会社の責任で従業員が働けなかった場合には、従業員は、給料を受け取ることができることになります(同条2項)。

2.新型インフルエンザの流行と事業主の責任

 「インフルエンザの流行は、会社の責任じゃない、だから従業員に給料を支払う必要はないはずだ」と思われる方もいるかもしれません。

 しかし、本当にそうでしょうか。会社(事業主)には、従業員が安全に働ける職場環境を整える安全配慮義務があるというのが確立した判例です。したがって、事業所を閉鎖するに至った原因は、会社のそうした安全対策の不備にあるということになれば、会社は、事業所を閉鎖している期間も従業員の休業補償を行わなければならないことになります。

 では、具体的に、どうすればよいでしょうか。

 第1に、うがいと手洗いの徹底を従業員に周知徹底させることです。社内の通達か何かで行うのがベストです。周知徹底させていることを文書の形で残しておいてください。

 第2に、マスクの着用も周知徹底させてください。問題は、勤務中もマスク着用を義務づけるかですが、これは業種によると思います。業務に支障が生じなければ原則としてマスク着用を徹底するのが理想です。しかし、不特定多数の人が出入りするような勤務場所や飲食店などの接客業では、多少の支障が生じてもマスク着用を義務づけたほうがよいと思います。お客様へ迷惑をかけるかもしれませんが、理解を求める努力をしてください。店頭に張り紙をするといった方法でもよいです。マスクを会社の負担で購入する必要はあるでしょうか。従業員の人数によっては現実的ではないので、基本的に従業員個々人に購入させてよいと思います。しかし、首都圏でもマスクを完売しているお店が出始めていることには注意が必要です。

 第3に、発熱、鼻水、関節の痛みなど、少しでもインフルエンザが疑われるような症状が見られた場合には、直ちに病院に行くように指導徹底してください。これも社内通達の形で書面化しておくとよいでしょう。なお、二次感染も出始めているので、海外渡航歴がないことは安心材料にならないことも付言しておいてください。