こんにちは。弁護士の吉成と申します。

 知的財産権については、企業の経営戦略上の重要性が益々増大しており、企業を経営されている方々にとって大きな関心事になっているものと思われます。
 私にとっても、知的財産権は、最も関心があるテーマの一つです。

 そこで、知的財産権の一つとされる商標権について、これから何回かに分けて、できるだけわかりやすく書いていきたいと思います。

 商標や商標権については、数年前に「阪神優勝」という商標を阪神球団とは無関係の方が登録していた件が話題になるなど、近年ニュース等で耳にされる機会も多くなっているのではないかと思います。
 ただ、一方で、商標や商標権が実際のところどういったものなのかについては、あまり周知されていないようにも思われます。

 まず、そもそも、商標とは、どのようなものでしょうか。

 端的に言えば、商品やサービス(役務)について、他の商品やサービスと区別し、提供している者を識別させるために使用する標識のことです。

 たとえば、シャネルのロゴマークは皆さんよくご存じだと思いますが、バッグにこのシャネルのロゴマークがついていれば、そのバッグがシャネルによるものだと識別できると思います。

 また、例えば、タクシーを利用する際、タクシーの車体に「○○タクシー」の文字やロゴなどがあれば、他のロゴがついているタクシーとは異なる特定の会社によってサービスが提供されているのかの識別ができます。

 このように、その商品やサービスを求める者に対し、その商品やサービスを提供している者を識別させるために、商品、サービスの提供に供する物、広告などに使用する標識が、商標です。

 シャネルとかソニーとか著名な会社の商標であれば、それが付されていれば、具体的な出所もわかりますが、そうした著名な会社の商標でなくても、同一の商標が付されている商品やサービスは、特定の者にようるものだと認識されるわけです。

 こうした商標には、文字、図形、記号のそれぞれを単独で使っても良いし、これらを組み合わせ使っても良いです。
 また、商標には、平面的なものだけでなく、立体的な形状のものもあります(立体商標)。
 有名なところでは、ケンタッキーのカーネルサンダースの人形が、立体商標として登録されています。
 また、コカ・コーラのボトルについても、立体商標として、登録が認められています。
 ちなみに、このコカ・コーラのボトルの商標登録については、特許庁が、登録を拒絶し、訴訟にまでなりましたが、訴訟の結果、登録が認められています(平成20年5月29日知的財産高等裁判所判決)。

 では、このような商標について、なぜ、法は、商標権として権利性を認め、保護しているのでしょうか。

 現代社会においては、不動産や動産といった形のある物以外にも非常に大きな価値を持っているものが多く、そういったものが利益を生み出すということは少なくありません。

 例えば、画期的で有用性の高い新しい技術が開発された場合、その技術に基づいて商品が作られるなどすると、莫大な利益を生み出す可能性があります。
 ただ、新しい技術自体は、形のない、一種の情報です。この情報を第三者が勝手に利用し、商品を作ることが比較的容易であることも少なくありません。
もし、こうした第三者による利用が無制限に許されれば、第三者は労せずして、利益を上げることができ、開発者は、開発のために投下した莫大な資本を回収できなくなり、大損害です。これでは、だれも技術開発をしなくなってしまいます。

 また、莫大な予算をかけて映画を撮ったとしても、第三者が勝手に複製して上映するなどして良いのであれば、第三者は労せずして利益を上げることができ、誰も映画を撮らなくなります。

 こうしたことから、法は、アイデアなどの形のないものについても、特許権や著作権などとして保護し、フリーライド(ただ乗り)を許さないものとしています。

 ところで、形のないものが価値を持つのは、何も知的な創作物に限られません。

 たとえば、有名ブランドの商品が売れるのは、長年にわたりその企業が様々な面で努力を積み重ね、あるいは効果的な宣伝を行うなどして、評判や信頼を築き上げてきたからです。
 こうした企業の評判や信頼は、それ自体が大きな価値を有するものであり、大きな利益を生み出すものといえます。

 ところで、もし、そのブランドのロゴ入りの商品を勝手に作って売る人がでてきたら、その人は、その企業が苦労をして築き上げてきた評判、信頼にフリーライドして、利益を上げられることになります。一方で、その企業としては、自社の商品と見分けがつかない他社製品が氾濫すれば、単に利益を逸するだけでなく、ブランド価値も貶められることになり、大損害を被ります。
 また、消費者にとっても、そのロゴを見て、その企業のものだから安心だと思って商品を買おうとしているのですから、勝手にそのロゴを使った商品が氾濫すれば、安心して商品を買うことができなくなります。

 こうしたことから、法は、商品、サービスの標識についても、商標権として保護することにしているのです。

 そして、企業にとっては、商標権を取得し、自社の利益を防衛するということが重要になるわけです。

弁護士 吉成安友