銀行交渉の基本姿勢

1.早めの相談の重要性

 資金繰りが苦しくなって、金利の減額等のリスケのお願いを銀行にしようと思っても、そんなことをすると経営が芳しくないことが銀行分かってしまい、却って貸し渋りや貸し剥がしにあうのではないか、と心配する経営者の方は少なくありません。末期症状になるまで弁護士に相談しない方が多いのと同じように、銀行への相談も末期症状になるまで行わないわけです。

 しかし、これでは本当に貸し渋り・貸し剥がしにあってしまいます。
 初期段階の方が銀行だって助けてあげようと考えます。実際、銀行にとっても、貸付先の会社に倒産される方が困るわけですから、この点では銀行との利害が一致しているわけですから。

 したがって、手の施しようがある早期の段階で、銀行に相談するべきだと思います。また、その方が、銀行に対して誠実さも伝わって、不信感をもたれずにすみます。

2.本気で再建意欲を

 たとえ早期に相談に行っても、経営者の再建意欲の強さを伝えなければ、銀行だって本気で協力する気になってくれません。こういった相談を受けた銀行の担当者の方のご不満をいつくか紹介しましょう。

 第1に、よくあるのが、再建計画中に”自己犠牲”的な計画が盛り込まれていないという点です。銀行にリスケをお願いするわけですから、基本的に迷惑をかける行為なわけです。それなのに、一方的に銀行に対して協力を要請するのは、銀行側から見ればずいぶんとむしのよい話に聞こえますよね。少なくとも、役員報酬を最低50%はカットするくらいの意気込みを見せないと、銀行に誠意は伝わらないと考えてください。

 第2に、再建計画の内容が具体性にかけ、再建できるという裏付けが弱い事業計画書が多い点です。会社の損益計算書をよく見てみましょう。銀行側からみて一番分かりやすいのは、営業利益は十分出ているが有利子負債が大きいため、経常利益を圧迫している場合です。この場合には、銀行の協力如何で、その会社の経営はだいぶ楽になるはずです。経常利益が悪い場合、その大きな原因となっているのは通常は金融機関に対する有利子負債だからです。

 しかし、営業利益自体にそもそも問題がある場合には、銀行が協力したって焼け石に水で、延命策にはなっても、倒産を回避する救済策にはなりません。したがって、この場合には、如何にして営業利益を改善できるか、その再建計画の内容にかかっているわけです。

 営業利益を改善する方法は大きく分ければ3つで、➀売り上げを上げる、➁売上原価を下げる、➂販管費を節約する、の3点です。通常、売り上げを上げたり、売上原価を下げることは容易ではありません。それができれば、どこの会社も経営に苦労しませんから。したがって、例えば、売り上げを大幅に上げるなどという計画は、単なる希望であって計画ではないわけです。一番まっさきに手をつけるべきなのは、やはり販管費でしょう。ここに役員報酬や職員に支払ってる人件費が入っています。そして、合理化経営を普段から心がけていた会社でない限り、この人件費がかなりを占めております。だから、まず経営者が自らの役員報酬を大幅カットする英断が不可欠なのです。それから、交際費もついでに大幅カットするような計画も忘れずに盛り込んでおいてください。銀行は、交際費の中に、社長さんの”遊び代”がたくさんあるはずだと思っていますから。

3.交渉の際に持っていく物

 銀行と交渉する際には、次に掲げる資料は最低限用意してください。

 ➀ 過去3期分程度の貸借対照表・損益計算書
 ➁ 資金繰表
 ➂ 精算貸借対照表
 ➃ 損益計算書をもとに分析した経営改善計画書
 ➄ リストラ等の業務改善実績報告書

 資金繰表は、月次毎の資金繰表だけではなく、月初から月末までの日繰りで記載されたものも用意した方がいいと思います。意外にここまでやられている中小企業の経営者の方はあまり多くありません。私が経営している弁護士法人ALGでも、この日繰りの資金繰表を毎月作成しています。しかも予定表と実績表の2本立てです。予定表と実績表を見比べれば、なぜ予定通りにならなかったかも分析できるからです。

 精算貸借対照表というのは、普段の決算の時に作成している貸借対照表とは違って、会社が倒産し資産を売却して精算したら、どのくらいの価値があるかを記載したものです。売れ残りの棚卸し資産や二束三文となってしまった什器備品など、資産価値がゼロとなるものも少なくないはずです。いずれにせよ、資産評価はかなり目減りするはずです。なぜこんなものを用意するのかというと、会社が本当に潰れてしまった場合、銀行が当てにできるのは、この精算価値で評価した資産だからです。会社が潰れてしまうと、いかに銀行にとって不利益かを説明するためです。

 経営改善計画書とは、損益計算書の重要数値を分析して、どの数値が悪く、そしてその原因は何か、ではどうすればよいのか、を分析した内容を記載して、今後の再建計画を説明する報告書です。損益計算書を見れば、アラ利益率、営業利益率、経常利益率、流動比率、当座比率。固定資産回転率、棚卸資産回転率、売上債権回転率など重要な経営指標を分析することができます。

 最後に、業務改善実績報告書も忘れないでください。銀行に血を流してもらう前に、まず自分たちが血を流したことを具体的に報告するためです。当然、役員報酬大幅カットや職員のリストラもここに入ります。自己犠牲の度合いで、経営者の本気度が伝わります。

 さて、今回は以上で終わりますが、どうでしたか?ここまで準備できれば、少しは銀行を説得できる自信がわいてきたんじゃないでしょうか?次回は、金利の減額交渉のテクニックについて、お話ししたいと思います。それでは、会社経営者の皆様のご健闘をお祈りします。