「松阪牛」、「みやざき地頭鶏」、「勝浦タンタン麺」等、ある地域において、その地域の名称を冠して大々的に販売等され、地域の活性化に役立てられている食品を見かけることがあると思います。これらの食品は、「地域団体商標」という特殊な商標権によって法的保護を受けているものが多くなっています。
地域団体商標とは
地域団体商標とは、「ある地域の名称」と「商品名」の文字のみからなる、通常では商標権付与対象とはならない標章に対し、(やや内容の特殊な)商標権を付与する制度をいいます。我が国では、平成8年以後、以下の要件を充足する場合に限り、商標登録が認められるようになりました。
地域団体商標の要件
まず、出願人が、加入の自由が法的に保障されている組合等(法人格を有し、法律に根拠を有するもの)である必要があります。もっとも、出願自体は組合が行いますが、地域ブランドによる地域の振興という制度目的から、後述の通り、通常の商標権とは異なり、出願人である組合等のほか、その構成員も当然に使用ができるようになっており、むしろ、出願人の使用のみを目的とする場合には権利が付与されないことになっています。
次に、登録される標章が、①組合等の構成員に使用させるためのものであること、②隣接都道府県には知れている程度の周知性を有していること、③地域名称+商品(役務)の名称の文字のみから構成されていること、④用いられる地域の名称が、商品の産地や役務の提供場所と密接な関連性を有していること、のいずれの要件も充足している必要があります。もっとも、以上の要件を充足しても、標章を全体として見たときに、すでに、我が国において普通に用いられている名称になっていては登録できません(例えば、「伊勢海老」や「薩摩芋」等)。
最後に、商標による保護を受ける必要性が求められます。地域一丸となった地域ブランド維持のための活動に用いられている標章であって、地域外での自由な使用、あるいは、地域内における無配慮な使用を防ぎ、地域ブランドとして保護されるべき標章のみが、地域団体商標の対象となります。
地域団体商標の活用
地域団体商標の登録がされた場合、通常の商標と同様、更新さえすれば永続的に権利が存続し、登録された標章の「第三者」による無許諾の使用が禁止され、違反者に対しては差し止め等を請求することができるようになります。もっとも、地域活性化を図るという目的から、上述の通り、商標権者ではなくても、構成員であれば自由に使用が可能です。また、商標権の第三者への譲渡や、許諾を受けた者しか使用できなくなる「専用使用権」の設定が制限される等、通常の商標権とは異なる性質も有しています。
以上のとおり、充足すべき要件はあるものの、強力な効果が付与されるため、冒頭の商品のような地域ブランド食品を確立したい場合には、ぜひおさえておくべき制度であると考えられます。