この点については、前述の通り、旅館等は債務不履行により損害が発生した場合に、当該損害を賠償する責任を負うに過ぎません。すなわち、ゴキブリが出たことによって発生した損害とは何か、という問題ですが、通常、ゴキブリに対しては嫌悪感を覚えるでしょうし、ゴキブリが出た客室ではなかなか安心して寝食することはできないものと考えられるため、完全な状態で部屋を使用できていないことによる損害や慰謝料等の精神的損害が一定程度発生していると考えられますが、算定は困難です。
裁判例においては、ダニが多数発生したことで100か所以上に虫刺されが生じた例において、慰謝料10万円を認めた例があります。
ゴキブリが出ただけの場合、必ずしも宿泊費全額の返還や多額の慰謝料の支払いを行う必要はないものと考えられますが、損害額の算定が難しい以上、例えば料理やお土産をサービスするといった対応程度で事態の鎮静化を図ることが適切であると考えられます。