お客様へのサービスの一環として、バス等による送迎を実施している旅館・ホテルは多くあります。高齢化が進んでいる現代においては、交通事故というほどではなくとも、例えばバスが急発進をしたこと等によって高齢の乗客が転倒、負傷するといった事故が多数発生しています。もし、お客様送迎中に事故が発生した場合、その責任は誰が負うことになるでしょうか。

 バスが急発進をしたこと等により乗客の転倒事故が起きた場合、当該バスの運転手の過失に基づく運転行為によって乗客が損害を被ったことになり、直接の「加害者」であるバス運転手が損害賠償責任を負うことになると考えられます(民法709条)。また、民法は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」とも規定しており、直接の不法行為をした者の使用者責任を定めています(民法715条1項)。そのため、運転手を雇用している者が、使用者として損害賠償責任を負う可能性があります。旅館・ホテルが直接バスを運行しているのであればそのバスが事故を起こした場合は旅館・ホテルが、外部のバス会社に送迎業務を委託している場合はそのバス会社が責任を負う損害賠償責任を負う可能性がある、ということになります。

 では、外部の会社に委託していれば旅館・ホテルは事故の責任を免れるのでしょうか。使用者責任は、雇用等の契約関係にかかわらず、加害者に対して実質的な指揮監督関係がある者に対する責任を定めています。そのため、バス会社に送迎業務を委託していたとしても、旅館・ホテルが運転手に対して実質的な指揮監督をしていた等の事情が存在すれば、旅館・ホテルは使用者責任を負う可能性があります。また、例えば送迎バスに旅館・ホテルの名称等が付されている等の事情があれば、外形的に当該送迎バスの運行は旅館・ホテルの業務そのものであるものと判断され、旅館・ホテルが責任を負う可能性はより高くなるものと考えられます。

 このほか、自動車損害賠償保障法3条が、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定し、運行供用者に対する責任を定めています。運行供用者とは、自動車を実際に運転していた者のみならず、自動車の運転や走行をコントロールできる立場にある者等が含まれると考えられています。そのため、送迎バスを旅館・ホテルが所有し、管理していた等の事情が認められれば、旅館・ホテルが損害賠償責任を追及される可能性が生じます。

 以上のように、送迎中の事故について旅館・ホテルが責任を負うかは、送迎バスの運行に対する関与の度合いや、車体の所有状況、バスの運営主体等によって異なってきます。もっとも、旅館・ホテルは自社のサービスの一環としてバスの運行を行うことが多く、たとえ第三者に運行を委託していたとしても法的責任を免れる可能性は低いと考えられます。

 事故を起こさないための従業員教育はもちろん、事故に対する損害賠償リスクが存在することを念頭に置いた保険の見直しや委託業者との契約関係の確認等をしておくことをお勧めします。