最近のホテル・旅館は、館内で提供するサービスのみならず、建物や庭園の形状に趣向を凝らす等、外観にも様々な工夫を取り入れ、集客に役立てています。しかし、こういった工夫は一目で明らかになる以上、他者による模倣も容易になります。せっかく創意工夫を凝らして創り上げたこれらの施設が競業他社によって模倣されることを防ぐ方法はないのでしょうか。
対策の一つとして、建物や庭園の著作権(複製権)を主張し、複製を認めないという手段を取ることが考えられます。一般的に、文字や音楽等ではない「建物」や「庭園」に著作権が発生することについてあまりピンとこない方も多くいらっしゃるかもしれませんが、実は建物に対しては「建築の著作物」として著作権法上も著作物として例示されています。庭園に対しても近時の裁判例が著作権の発生を認めています(大阪地決平成25年9月6日)。
もっとも、全ての建物や庭園が必ず「著作物」として著作権の保護を受けられるわけではありません。例えば、建物については、平成10年度の「グッドデザイン賞」を受賞した程にデザイン性に優れたモデルハウスについての著作物性が争われた事案がありました。裁判所は、「建築の著作物」に該当するためには、建築物において通常なされる程度の美的創作が施されるのみでは足りず、建物の実用性や機能性とは別に、外観が独立して美的鑑賞の対象となり、建築家や設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性が具備されていることが必要である旨判示しました(大阪高判平成16年9月29日)。庭園についても、上記平成25年決定は、庭園設計者の思想または感情が、具体的施設の配置とデザインによって現実化されている部分にのみ、著作物となることを認めています。
これらの裁判例を見ると、むしろ建物や庭園に著作物性が肯定されることは難しいと感じるかもしれません。しかし、上記平成16年のモデルハウスをめぐる判決では、それ以前の裁判例が、大量生産される実用品(応用美術)に著作物性を認めるために「高度の」創作性を要求していたことをうけ、同じく実用性を有するモデルハウスにおいても、通常に比して高度な美観性を要求したとも考えられます。
最近、応用美術の著作物性について、応用美術についてのみ「高い創作性」を要求するのは適切ではなく、個別具体的に作成者の個性が発揮されているか否かを基準とすべきと判断した裁判例が登場しています(知財高判平成27年4月14日)。今後は、同じく実用品である建物においても著作物性が認められやすくなる可能性があります。
このように、最近になって裁判所の新たな判断がされたばかりの分野ですが、建物の外観や庭園にもこだわりをもっている経営者の皆さんにとっては、著作権は模倣対策の一手段として有効な方策となり得るでしょう。一度、自らの建物や庭園が、製作者の創作性を発揮したものとして「著作物」といえるか、見返してみてはいかがでしょうか。