Q:先生こんにちは。
ちょっと困ったことがあって……この間亡くなった父が、父の弟のお嫁さんの妹夫婦っていう遠い親戚夫婦に、もう50年くらい前になるのかしら、空いていた土地を貸していたみたいなんだけど、せいぜい固定資産税とかくらいしか払ってきていなかったみたいなのよね。
元々あまり付き合いもなかった人たちで、父の葬式にも来なかったから、相続関係が落ち着いてようやく気づいてから聞きにいったのよ。でも、行ってみたら、遠い親戚夫婦は既に老人ホームに入っていて住んでいなくて、その息子さんたちが住んでいたのよね。息子さんたちの身なりもよかったし、家もそんなに古くはなくて結構しっかりした家で、最近建替えたんじゃないかしら。それで話を聞いてみたら、どうもお金は基本的に払わなくてもいいっていう約束だったみたいで、固定資産分以外はお金は払わないし、出ていかないの一点張りなのよ。
状況もよくわからなくて申し訳ないんだけど、相続税とかもあるし、できれば返してもらって、資産として運用したいんだけど、できるのかしら?
そもそも、無料で貸してたんだし、出て行ってもらえると思うんだけど……

A:使用貸借契約が終了したとして、建物を収去し、土地を明け渡すよう請求できる可能性があります。
本件では、固定資産税等程度しか金銭の支払いがなかったことから、賃貸借契約というよりは使用貸借契約の成立が認められる可能性が高いものと考えられます。
そして、使用貸借契約は、期間や目的を定めなかった場合、使用及び収益をするのに足りる期間が経過した場合には、終了するとされています(民法597条2項但書)。
そのため、本件では、契約期間はないものと考えられますので、使用及び収益をするのに足りる期間が終了していたといえるかが重要となり、より詳細な事情を把握する必要がありますが、現在の人間関係や土地を貸した経緯からすれば、請求が全く認められないといった事案ではないものと考えられます。

さらに詳しく

 一口に土地を貸していたといっても、それが賃貸借契約なのか、使用貸借契約なのか判断が分かれるところです。この点、両者の区別は、使用収益の対価である賃料の有無ですが、賃料が極めて低廉である場合には、法的には賃料と評価されず、賃貸借契約が認められないこともあります。

 特に、本件のように、固定資産税等の課税のみを対価として支払っているような場合には、裁判例上は、賃貸借と認めない傾向にあります。

 そのため、本件については、使用貸借契約が成立していたという前提で検討する必要があります。

 使用貸借契約は、個人的な信用関係に立脚していることが多いため、賃貸借契約とは異なる終了事由が定められています。具体的には、期間の定めがある場合には、当該期間の経過で、期間の定めがない場合には、契約の目的を達成したことで契約が終了するものとされています(民法597条1項、2項)が、実務上は、このような契約の期間や目的が不明確であることがほとんどです。そこで、契約の終了事由として検討されるのが、使用及び収益に足りる期間が経過したか否か(同条2項但書)ですが、この点については、最高裁昭和45年10月16日判決により、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較衡量して判断すべきであるとされています。

 本件では、50年という期間が経過していることや、賃借していた当事者である遠い親戚夫婦は老人ホームに入居しており既に居住していないこと、賃貸人であった亡父の葬式にも来ないような人的関係であったことや息子夫婦がお金に困っていなさそうであること等からすれば、使用貸借が終了する方向に判断される可能性があります。

 但し、土地が無償で貸借されるに至った経緯等によっては判断が左右され得るため、より詳細に調査する必要があるものと考えられます。

 なお、本件では、建物の建替えが行われており、老朽化等は進んでいないようですが、そのような事情は判断の基礎とはならないことが判例(最高裁平成11年2月25日)において示されているため、判断において重視されるものではありません。

 前述のような検討が必要であることから使用貸借は、ある意味賃貸借よりも解除しにくい状況も生じ得ます。判断には、事実関係の詳細な検討や法的な判断が必要となるため、賃貸借以上に弁護士等を利用する必要性が高いと考えられますので、何かあったらすぐに相談しましょう。