1. はじめに

 こんにちは。
 肌にまとわりつくような夏の暑さも去り、秋の訪れを感じるようになってきましたね。
 秋といえば運動会等の行事が行われますが、私の居住するマンションでも様々な行事に関するポスターが掲示板をにぎわせています。

 そんな中、最近、ホタル族に関するポスターが張られはじめました。ホタル族とは20年以上前からある呼称で、マンションのベランダにおいて喫煙をする人を指します。
 そんなホタル族がなぜ今になってまた話題になり始めたのでしょうか。
 昨今、受動喫煙防止条例等により喫煙に対する監視の目が広がっていますが、実は、ホタル族については、昨年末にホタル族に損害賠償責任を認めた判決が出ているのです。

2. 名古屋地方裁判所 成24年12月13日判決について

(1)  事案の概要

 X(原告)はマンションの509号室に居住している住人であり、Y(被告)はXの階下の409号室に居住していました。Yは喫煙者であり、平成20年2月頃からベランダで喫煙し続けていたところ、当該喫煙による煙が509号室に流入していました。Xは喘息持ちであり、煙により強いストレスを感じ、帯状疱疹を発症したことから、Yに対し、手紙により喫煙をやめるよう求めました。しかし、YはXの要求を受け入れず、その後のXの再三の要求やマンション管理組合によるベランダにおける喫煙に関する注意の掲示も無視し続けました。

(2) 裁判所の判断(括弧内は著者編)

ベランダにおける喫煙行為が不法行為になりうること

 自己の所有建物内であっても、いかなる行為も許されるというものではなく、当該行為が、第三者に著しい不利益を及ぼす場合には、制限が加えられることがあるのはやむを得ない、そして、喫煙は個人の趣味であって本来個人の自由に委ねられる行為であるものの、タバコの煙が喫煙者のみならず、その周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れのあること、一般にタバコの煙を嫌う者が多くいることは、いずれも公知の事実である。

 したがって、マンションの専有部分及びこれに接続する専用使用部分における喫煙であっても、マンションの他の居住者に与える不利益の程度によっては、制限すべき場合があり得るのであって、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、喫煙を継続し、何らこれを防止する措置をとらない場合には、喫煙が不法行為を構成することがあり得るといえる。このことは、当該マンションの使用規則がベランダでの喫煙を禁じていない場合であっても同様である。

本件におけるYの喫煙が不法行為にあたり、Xの精神的損害につきYに5万円の賠償責任があること

 被告がベランダで喫煙をした際に出るタバコの煙がマンションの直上階にある原告のベランダに上り、原告の自室内に入ることは十分にありうることがらである

他方、本件マンションは居住用マンションであって、……本件マンションの立地は日常的に窓を閉め切り空調設備を用いることが望まれるような環境ということはでき(ない)

 このような状況において(原告が前述の事案の概要における再三の要求をしたにもかかわらず)、……被告が、原告に対する配慮をすることなく、自室のベランダで喫煙を継続する行為は、原告に対する不法行為になる

 原告は、タバコの煙について嫌悪感を有し、重ねて被告にベランダでの喫煙をやめるよう申し入れているところ、被告が、原告の申し入れにもかかわらず、ベランダでの喫煙を継続したことにより、原告に精神的損害が生じたことは容易に認められる

3. 受動喫煙に対する対応

 上記裁判例のように、ベランダで喫煙をする行為は不法行為に該当する可能性があります。ホタル族からすれば、家の中では家族に喫煙を嫌がられ、一方で、ベランダで吸えば近隣住民から損害賠償請求されかねないという状況であることになり、どこで吸えばよいのかと思うかもしれません。ホタル族がどうすればいいのかについては、上記裁判例について直接は言及されておりませんが、関連部分として以下のような判示部分があります。

 被告がベランダでの喫煙をやめて、自室内部で喫煙していた場合でも、開口部や換気扇等から階上にたばこの煙が上がることを完全に防止することはできず、互いの住居が近接しているマンションに居住しているという特殊性から、そもそも、原告においても、近隣のタバコの煙が流入することについて、ある程度は受忍すべき義務があるといえる

 上記判示部分からすれば、ホタル族は煙を抑える努力をすべきであるものの、ある程度外部に煙が流れることはやむを得ず、近隣住民には一定程度の受忍義務があるものと考えられます。

 また、上記裁判例は、そもそも度重なる要求や掲示に対し、何の配慮もせずに漫然とベランダで喫煙し続けた結果、不法行為責任が生じた事例であることから、ホタル族としては、たとえば通常近隣住民の窓に近いベランダでの喫煙ではなく、通常窓から離れていると考えられる換気扇付近での喫煙等、近隣住民が煙について迷惑を感じない範囲で喫煙する方策を採るべきものと考えられます。

 近隣住民トラブルが多様化する中、喫煙するに際しても、近隣住民に対する配慮は忘れないようにするべきと思われます。

弁護士 中村 圭佑