相談

 大手事業者と取引しています。最初は一つの支店を窓口に取引をしていたのですが、徐々に他の支店の仕事も請け負うようになりました。

 当初こそ、請求は一つの窓口を通してやっていたのですが、そのうち請求が煩雑になったことから、各支店へ直接請求するようになりました。

 ところが、支店名での振り込みではなく、おまけに振込期日も守ってもらえず、まちまちだったため、どこの支店からの入金かが分からず、確認作業に手間取っていました。仕事量の増加にともない、確認作業がさらに困難になり、知らず知らずに未納がたまっていきました。このままではまずいと思い、一度しっかりと確認して、未納分をまとめ、担当の窓口に請求したのですが、仕事を受けた各支店に請求してくれと言われ、再度、各支店に請求しました。

 しかし、各支店からは、確認がとれないという理由で、支払ってもらえないという状況です。どうすればいいか、教えてください。

回答

1 結論

 本件の未納分は、取引を行った各支店のみでならず、相手方の会社全体に支払義務があると考えられますので、取引の未納分をまとめて相手方本店に対し請求することが考えられます。

2 理由

ア 支店との取引は会社全体との契約である支店とは、会社の営業活動を行う営業所のうち、独立して営業所としての要件を満たすもので、基本的には会社(本店)に従属している営業所をいいます。

 そして、支店は、法人という会社全体の手足の一部に過ぎませんので、複数の本店や支店がある場合でも、法的には会社という一つの法人格しかありません。

 つまり、形式的には支店と契約をしたように見える場合であっても、契約主体はあくまでも会社自身となるのです。すると、当該支店が属する会社に契約上の義務が生じることとなるため、当該会社に債務を弁済する義務が生じます。
 例えば、契約書上の相手方の名義が、「A株式会社 B支店 支店長C」となっていた場合でも、C支店長はA会社の代理人に過ぎず、契約相手はA会社となります。

 なお、法律とは別に、会計上は、支店と本店について別の扱いをしている場合があります。
 そのため、会社との契約において、支店との取引に基づく請求は当該支店にのみするよう求められる場合があるかもしれません。
 しかし、会計上の取り扱いはあくまで相手方会社内部の問題ですので、法律上は、個別の支店との取引により生じた債権を本店に対し請求することが可能です。

イ 支店が法的には支店ではない場合もある
 ただし、前述の説明はあくまでも法的な支店との間の関係であり、仮に、契約相手が子会社やフランチャイジーである場合は、結論が異なります。

 特に、支店と子会社、フランチャイジーなどの区別は、それぞれの会社が付している名称に関わらず、法律上の違いですので注意が必要です。 つまり、「○○支店」という名称が付されていたとしても、必ずしも法的に支店であると断言することはできないのです。
 これらの法律上の区別は、会社の登記に記載されていますので、区別を明らかにするには、当該会社の登記を請求する方法が考えられます。

 本件においても、まず、相手方会社の登記を確認し、取引をした支店が、法律上も支店と扱われているか否かを明らかにすべきと考えられます。
 そして、取引の相手方が法律上の支店である場合には、契約の主体は相手方会社自身となるため、当該支店のみでなく、相手方会社自身、すなわち本店に対しても請求が可能であると考えられます。
 したがって、各支店の未納分をまとめて本店に対して請求することもできると考えられます。

 契約相手が子会社やフランチャイジーであった場合は、それぞれの取引について、契約相手である子会社やフランチャイジーにのみ請求が可能であり、親会社や、フランチャイザーには請求ができないと考えられます。
 この場合は、それぞれの子会社、フランチャイジーごとに請求額をまとめ、それぞれの子会社、フランチャイジーに請求していくべきと考えられます。

3 時効について

 一方、本件では他に注意すべきことがあります。それは、債権の消滅時効の問題です。

 会社の取引によって生じた債権は、原則として5年間で時効によって消滅します(商法522条)。さらに、会社が売却した商品の代価に係る債権や、いわゆる請負契約によって発生する報酬債権などは、原則として2年間で時効によって消滅する場合があり(民法173条)、また、運送費に係る債権などはたった1年間で時効によって消滅してしまいます(民法174条)。

 このように、短期間で時効が完成する場合もあり得ますので、債権の回収をする際は、残りどの程度の期間で債権の時効が完成してしまうのかということは常に意識する必要があります。

 その上、電話や書面にて相手方に継続的に支払いを請求していても、時効が完成してしまう可能性もあります。「請求し続けているのだから消滅時効は完成しない。」と勘違いしている方もいますが、それは間違いです。 時効の進行をリセットさせるには、相手方に対して単に「支払え」と伝えるのみではなく、訴訟の提起、支払督促の申立て、民事調停の申立て等の法的手続による請求をすること、又は相手方に債務が存在することを承認させることが必要です。法的手続以外の、書面や口頭による請求(法律上はこれらを「催告」といいます。)では、その後6か月間以内に法的手続による請求をしない限り、時効はリセットされません(民法153条)。

 本件においても、請求先がわからないという状態でこのまま放置してしまうと、思いもよらぬ短期間で時効期間が経過し、自社の債権が消滅してしまう可能性があります。

 また、本件では、それぞれの契約について、定められた代金の支払日から別個に時効が進行するので、どの債権がいつ時効にかかるのかを正確に管理し、時効が完成する前に訴えの提起等の法的手続や、債務の承認等を検討すべきと考えられます。