被害者がいる犯罪では、示談を取りまとめることが、起訴前後を問わず被疑者・被告人にとって極めて重要です。
起訴前であれば、示談成立によって不起訴処分や、早期に身体拘束から解放される可能性を高めます。
起訴後であれば、執行猶予や、示談が不成立の場合に比べて低い量刑となる可能性を高めます。
とはいえ、示談を成立させることは簡単ではありません。
被害感情が極めて強く、犯人からは何も受け取りたくないと言う被害者も少なくありません。被害金の何十倍ものお金を支払うことを示談の条件とする被害者もいます。
このような場合には、被疑者・被告人を宥恕するとの内容の示談を成立させることはおろか、被害回復すらできない可能性が高くなります。では、このような場合には、どうしたらよいのでしょうか。
民法には、債権者が債務の受領を拒んだ場合に、債務者が採りうる弁済の手段として、弁済供託といわれる制度があります(民法494条)。
弁済の目的物を供託することによって、債務を免れさせる制度です。
しかし、これを刑事事件の示談交渉の場面で活用したとしても、実際に供託された金銭を受け取る義務までは債権者にはないため、実際の被害回復にはつながらない可能性もあります。ただ、供託することで、被告人の慰謝の態度が見て取れ、これにより検察官の終局処分や裁判官の判決に影響を及ぼす可能性は十分にあります。
ですので、被害者が被害金すら受け取らない姿勢を明確にしている場合には、供託制度を利用することは有効です。
なお、一方的に債務を弁済してしまおうとする制度ですので、被害者の感情面への配慮が必須と言えます。まずは、弁護人に粘り強く示談交渉してもらい、被害者の感情を逆なでしないように細心の注意を払い、最終手段として供託制度を用いるべきでしょう。
弁護士 吉田公紀