プロ野球選手による賭博への関与が大きな話題となっています(http://www.nikkei.com/article/DGXLSSXK30826_T20C16A3000000/)。

 プロスポーツ選手が賭博に関与すると、やがて自らのスポーツ自体の賭博に手を染め、さらには自分の所属するチームの勝ち負けに賭けるようになる危険があります。そして、自チームの勝敗への賭けは、いわゆる八百長の温床となりやすいことから、昨今のプロスポーツ界ではこれを厳しく取り締まっています。日本のプロ野球でも、日本プロフェッショナル野球協約2015の第177条で、所属球団が直接関与する試合について賭けをすることは「不正行為」とされ、所属球団が直接関与しない試合についての賭けも、同第180条で禁止行為とされています。なお、177条違反の効果は「永久追放」、180条違反の効果は「1年または無期の失格処分」とされています。

 では、これらの行為は刑法等の法令には触れないのでしょうか?

 刑法第185条は「賭博罪」を法定し、これを禁止するとともに、処罰を定めています。また、同法第186条は、「常習賭博及び賭博場開張等図利罪」を定め、賭博を常習で行った場合や、いわゆる胴元となった場合などをより重く処罰することを定めています。

(賭博)
第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第186条 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2  賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

 ここに、「賭博」とは、「偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うこと」とされています。そして、「偶然」とは、「当事者において確実に予見できず、または自由に支配し得ない状態をいい、主観的に不確実であることをもって足りる」とされます。また、仮に選手が八百長に手を染めていても、例えば野球の場合には先発だけでも2チーム合わせてその者以外に17人もの選手が関与することから(控え選手や監督、コーチを含めると関与者はさらに増えます。)、勝敗の帰趨は多少なりとも偶然性の影響下に立つものと思われ、このような場合でも「偶然の事情」が認められると思われます。偶然性の大小は、犯罪の成否に影響を及ぼさないのです。

 ところで、各種報道やテレビの解説等でも指摘されていますが、刑法第185条は、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」を処罰の対象から外しています。
 これは、形式的には賭博行為に当てはまる場合であっても、単に一時的な娯楽のために物を賭けたに過ぎないような場合には、その程度の軽微性又は社会的相当性のために、処罰を行わないこととされたものです。

 では、どのような場合に「一時の娯楽に供する物」とされるのでしょうか。
 これについては、判例は、価格の低さと費消の即時性の双方を考慮し、総合的に判断しているものと思われます。一般には、その場で直ちに消費する茶菓や食事等がこれにあたり、金銭はその性質上、一時の娯楽に供する物にはあたらないとされています。ただ、一時の娯楽の用に消費される程度の少額の金銭であれば、賭博罪は成立しないとみるのが多数の見解といえるでしょう。

 解説の中には、賭博の主体がプロ野球選手で、その収入に比して賭け金が低いことを理由に、本罪に当たらないと説明するものもあるようです。しかし、本罪の成否に行為主体の収入は一般には関係しないと考えるべきでしょう。