こんにちは。刑法上にはいろんな犯罪が成立しうるのですが、今日は生活保護の受給との関係でお話したいと思います。

 生活保護を受給しているAさんは、実は福祉事務所に内緒でアルバイトをしています。
Aさんはアルバイトで毎月約10万円程の収入を得ていますが、このことを福祉事務所に報告すると‘収入認定‘されて保護費が減額されると考えてアルバイト収入を得ていることは黙っています。
 Aさんの行為は、何かの犯罪にあたるのでしょうか?

 生活保護費の支給については、生活保護法に定められています。同法第24条第1項には申請時に要保護者の資産及び収入の状況を記載することを要しています。そして同法第61条には、収入に変更があった時は、すみやかに保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出ることを義務付けています。
 さらに同法第85条には「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、3年以上の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と規定されています。

 Aさんはアルバイトにより収入に変更があったので、同法第61条によりこのことを福祉事務所に届けなければならないのにこれをせず、従前通りの保護を受けている点で、「不実の申請その他不正な手段により保護を受けた者」として、3年以上の懲役又は100万円以下の罰金の罰則規定にあたる可能性があります。

 ここで、同法第85条には但書があり、「ただし、刑法に正条があるときは、刑法による。」と規定されています。つまり、Aさんの行為が刑法各条に定める罪に当たる場合は、刑法各条が適用されます。

 Aさんの行為についてみますと、Aさんはアルバイトで収入を得るようになったことを「収入に変更があった」と、すみやかに福祉事務証に届け出る義務があるのですが、生活保護費を不正に受給するためにあえてこれを届け出ていません。Aさんはアルバイト収入を得ていることを届出しなければならず、Aさんがこの届け出義務があることを認識しながらあえてアルバイト収入があることを隠し、従前の生活保護費を不正に受け取ったのであれば、Aさんは不作為によって「人を欺いて財物を交付させた」といえ、刑法第246条の詐欺罪に当たる可能性があります。(詐欺罪の法定刑は10年以下の懲です。)