皆様は、「決闘罪ニ関スル件」という法律をご存知でしょうか。明治22年に成立し、全6条から成る、漢字カナ交じりの古い法律です。
 AがBを殴り、Bがけがをしたという場合、刑法はAに対して傷害罪という条文を用意しています。また、Bが死んでしまった場合には、傷害致死罪や殺人罪という条文が用意されています。
 ところが、AがBを殴った場が「決闘」と呼ばれるものだった場合には、この「決闘罪ニ関スル件」の規定が適用されることとなります。

 いまどき決闘なんて、と思われますか。
 法律は古いものの、じつは、今月8日、この法律違反で22人の少年が送検されました。
 ニュースによると、今年8月17日午後2時頃、14歳~19歳の少年が2チームに分かれて、約10分間にわたり、素手で殴り合いをしたとのことです。

 少年らは、事前に、無料通信アプリ「LINE」を用いて意思を通じ合っていました。
 まず片方のグループが、今年8月の上旬に「外国人のくせに生意気だ」などと挑発して決闘の申込みを行い、もう片方のグループがこれに応じました。そして、2チームに分かれて決闘をすることを前提として時間や場所等の集合要件を決めるとともに、「蹴りは無し」「凶器は無し」「髪の毛をつかむのは無し」などのルールも決めていたのだそうです。

 「決闘」とは、「当事者間の合意により相互に身体または生命を害すべき暴行をもって争闘する行為」をいいます(最高裁昭和25年 5月16日判決・昭和24(れ)2887号)。「決闘ヲ行ヒタル者」に対しては刑罰が科されます(決闘罪ニ関スル件2条)。

 本件では、決闘が行われた今年8月17日に先立って、少年たちの間に、今年8月上旬頃に「外国人のくせに生意気だ」に端を発する決闘の合意が成立しています。そして、少年たちは「蹴らない」「凶器を持たない」「髪の毛をつかまない」の事前合意にのっとって素手で殴り合っており、すなわち身体を害すべき暴行をもって争闘しており、まさしく「決闘ヲ行」ったといえるでしょう。

 決闘をした結果、特に相手の身体の生理的機能に障害が生じなかった場合には刑法の暴行罪と比較して重い方の科刑(決闘罪ニ関スル件2条、同6条)、相手の身体の生理的機能に障害が生じた場合には刑法の傷害罪の科刑、相手が死んでしまった場合には刑法の殺人罪又は傷害致死罪の科刑となります(同3条)。
 決闘の場所を貸した人や、決闘の行く末を見届ける立会人となった人にも刑罰があります(同4条)し、「決闘に応じないなんて臆病者だ」などとおとしめる発言をした場合には刑法上の名誉棄損罪が適用されることとなっています(同5条)。

 なお、本件に関連して、大審院明治のものから過去の裁判例を調べていたところ、決闘罪の適用裁判例は複数見つかったのですが、そのほとんどが少年事件であることに気づきました。
 決闘といえば、かつては紳士達が名誉をかけて一対一の争闘をしていたようなイメージもあります(相手に手袋を投げつけることが決闘の合図、という慣習があったそうです。)が、現代では、少年同士のチーム争いのような色が濃いのかもしれませんね。
しかし、決闘によって科される刑罰は甘くありません。

 いち大人としては、いくら友人との絆や約束があるとはいえ、自分や他人をみだりに傷つけるようなことがなるべくないようにと願っています。