今月21日、比較的めずらしい罪で、少年が送検されたという報道がありました。罪名は往来妨害致傷罪、内容は、幅約9メートルほどの市道に20個ほどレンガやブロックを並べて往来に危険を生じさせ、通りがかった原付を転倒させて運転者にけがをさせたというものです。
往来妨害罪は、刑法124条1項に規定されています。往来妨害罪にあたる行為を実行した結果、人が傷害を負った場合を往来妨害致傷罪といい、これは同条2項に規定されています。
したがって、往来妨害致傷罪が成立するかどうかの判断の前提には、往来妨害罪にあたる行為が行われていたかどうかの判断があります。
では、今回の件で、往来妨害罪は成立するのでしょうか。
実際にブロックに引っかかって人が転倒しているので、それは往来を妨害したんだろうというのが通常の発想かと思いますが、条文・判例に照らして考えると、意外にも難しい問題が潜んでいます。
往来妨害罪は、大きく分けて、3つの要素から成り立っています。3つの要素が全てあてはまる場合には、往来妨害罪が成立します(刑法124条1項)。
① 対象が陸路、水路、又は橋であること
② ①を損壊又は閉塞すること
③ ②によって往来を妨害する危険を生じさせること
今回は、場所が市道ですので、陸路であることには疑いないでしょう(①○)。難しいのは、②のところです。
「損壊」とは、往来が困難になるほどの物理的破壊をいいますから、これには当たらないでしょう。
では、「閉塞」はどうでしょうか。「閉塞」とは、有形の障害物を置いて道路を遮断することです。「遮断」と聞いて、皆さんはどういった態様を思い浮かべますか。これは、「損壊」と並んで規定されている以上、「損壊」と同じぐらい往来を困難にさせることが必要でしょう(名古屋高裁昭和35年4月25日判決・昭和34年(う)666号)。
たとえば、幅約5.9メートルの道路の端から真ん中にかけて、車体約4.26メートルの自動車を斜めに駐車したうえガソリンを振りかけて放火炎上させた場合(最高裁昭和59年4月12日決定・昭和57(あ)893号)や、幅約1.6メートルの路上に中古テレビ、茶だんす等のごみを多数投棄した場合(判例ではその投棄したごみの量につき「堆積」という表現が使用されるほどでした。)場合(東京高裁昭和54年7月24日判決・昭和53年(う)2835号)には、道路を遮断しており「閉塞」にあたるとされています。
一方、幅11.9メートルの道路上に、立て看板やたらいを点々と置いたものの、通行者がわずかな注意を払うことによって、さほどの困難なく回避したり、乗り越えたり、または取り除いたりして安全に通行できるような場合は、道路を遮断しておらず「閉塞」には当たらないとされています(名古屋高裁昭和35年4月25日判決・昭和34年(う)666号)。
あらためて本件を見てみましょう。
幅約9メートルの道路に、20個程度のレンガやブロックを置いた場合には、道路が物理的に破壊されたのと同じぐらいに交通の危険を生じさせるといえますか。それとも、少しの注意で、障害を取り除いたりして安全に通行できるようになるといえますか。
上の裁判例の状況と比べながら考えてみてほしいのですが、私は、この情報だけでは、「閉塞」とはいえないように思います(②×)。
すなわち、今回の件で、少年に往来妨害罪が成立するのかどうかという点については、今報道によって判明している情報を頼りにする限り、難しいのではないかと考えています。
もっとも、往来妨害罪にあたらないとしても、道路にみだりにものを置くことは道路交通法76条3項によって禁止されており、その違反には同法119条1項12の4号により罰則が規定されていますので、こちらにあたると言われれば、それはそうかもしれません。