皆さま、こんにちは。
 今回は、会社役員の休業損害についてみてみたいと思います。

 休業損害とは、被害者が受傷の治療または療養のため休業または不十分な就業を余儀なくされたことにより、その治癒又は症状固定時期までの間に得べかりし利益を得られなかったことによる損害を意味します。
 この休業損害は、原則的には、事故前の現実収入が基礎とされます。

 この点、会社役員の報酬には、労務提供の対価部分としての報酬と利益配当の実質を有する報酬とがあります。
 そして、「会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は休業損害として認容されるが、利益配当の実質をもつ部分は消極的である」とされています(赤い本2011上p62)。

 すなわち、会社役員の休業損害については、会社役員の報酬のうち、役員としての稼働に支払われる労務提供の対価部分は損害として認められますが、経営結果による利益配当の実質をもつ部分については消極的に取り扱われています。

 役員としての報酬のうち利益配当の実質をもつ部分に関しては、その地位にとどまる限り、休業しても原則として逸失利益の問題は生じないと考えられるからです(東京地判昭和61年5月27日参照)。

 役員報酬のうち、休業損害として認められる「労務対価部分」と「利益配当的部分」の区別について、労務対価部分が報酬に占める寄与率は、実務上、会社の規模(および同族会社かい否か等)・利益状況、当該役員の地位・職務内容・年齢、他の役員・従業員の職務内容と報酬・給与の額、類似法人の役員報酬の支給状況などを検討して判断していくべきものと解されています。上記裁判例では、「個々の企業の規模、当該役員の執務状況、その他諸般の状況をきめ細かく考慮して、役員報酬という名目にこだわらず判断する必要性」があるとされています。

 もっとも、上記のように会社役員としての報酬のうち、いかなる範囲で労務提供の対価と捉えるかは判断が困難ですから、休業損害を求めていく場合には、役員報酬といっても労務提供の対価部分がほとんどを占めることの立証などに努めるべきといるでしょう。

 なお、個人会社の社長のように個人事業主といった方が実態に合っている場合には、「事業所得者・自営業者」に当てはまるものとして取り扱われることになります。

弁護士 髙井健一