人が権利能力を取得するのは出生のときであるとされており(民法3条1項)、胎児は原則として、独立の権利帰属主体とは認められていません。
 そのため、交通事故によって、胎児を流産・死産した場合には、胎児自身の損害というものは、観念できないということになります。

 もっとも、交通事故によって胎児を失ってしまった母親の精神的苦痛は甚大なものであり、これを一切考慮しないというのは妥当ではありません。

 したがって、実務上、交通事故によって胎児を流産・死産した場合には、胎児を失った母親の損害として請求することが可能な場合があります。

 胎児の流産・死産について、どのくらいの慰謝料が認められるかは、様々な事情によって異なりますが、胎児が妊娠何週目であったかは重要な要素になるようです。
 たとえば、出産予定日の4日前の事故により死産した事例では、800万円の慰謝料が認められています(高松高判平成4年9月17日)。

 なお、胎児の父親に慰謝料請求権が認められるかについては、実務上争いがあり、肯定説と否定説にわかれています。胎児の父親にも300万円の慰謝料請求権を認めたものとしては、東京地判平成11年6月1日などがあげられます。

 不幸にも、交通事故によって胎児を失ってしまったというかたは、弁護士にご相談されることをおすすめします。