こんにちは。運行供用者責任についての3回目のブログは、先週予告したとおり、判例がどのように運行供用者の該当性を判断しているかについて紹介したいと思います。
では、早速、判例において運行供用者の該当性が問題となるケースを見てみましょう。
事案1:最判昭和39年2月11日・民集18巻2号315頁
Ⅹ組合は事故当時、自動車を所有しており、運転手に対しては終業時に自動車を車庫に格納した上で、自動車の鍵を当直員に返還させることとし、就業時間外に上司に無断で自動車を使用することを禁じていた。しかし、実際の自動車及び鍵の管理は厳格に行われておらず、運転手が就業時間外に無断で自動車を運転することも稀ではなく、また、Ⅹ組合においてかかる無断使用を防ぐために管理上特段の措置を講じていなかった。
そのような事情の下で、Ⅹ組合の運転手Aが無断でⅩ組合の自動車を運転し、交通事故を起こした。
まず、無断運転をしたAが運行供用者に該当し、運行供用者責任を負うことについては問題がありません。
本件では、被用者にA無断運転をされたⅩ組合が運行供用者にあたるかが争われました。
判断
本判決は、Ⅹ組合は運行供用者に当たると判断した原審の判断を正当であるとしました。
本判決は、
「事故を生じた当該運転行為が具体的には第三者の無断運転による場合であっても、自動車の所有者と第三者との間に雇用関係等密接な関係が存し、かつ日常の自動車の運転及び管理状況等からして、客観的外形的には前記自動車所有者等のためにする運行と認められるときは、右自動車の所有者は『自己のために自動車を運行の用に供する者』というべく自動車損害賠償保障法3条による損害賠償責任を免れないものと解すべき」
であるとしてⅩ組合に運行供用者責任を認めた原審の判断を正当なものと認めています。
したがって、本判決も原審同様の視点から自動車所有者と運転者との関係、日常の自動車の運転・管理状況等 から客観的外形的 に運行供用者該当性を判断しているといえます。
また、この判例は、運行供用者該当性は事故の原因となった運行について存在した各種の事実に基づいて判断されるという考え方(事実説)に立ち、自賠法3条の「その運行」を「自己のための運行」と解し、当該事故の原因となった具体的運行について支配・利益の帰属する主体が運行供用者に当たるとする考え方(具体説)と採っていると解されています。したがって、本判決は、被害者である原告が事故の原因となった運行について存在した各種の事実(本件でいえば、ⅩとAの雇用関係、自動車の運転・管理状況等)を主張・立証する必要があるとしたものとも解されています(請求原因説)(『交通損害関係訴訟』2009年・青林書院・46頁参照)。
上記の判例の立場によれば、原告が被告側の内部事情について証拠を収集し事実を主張・立証することになりますが、これでは被害者の迅速適正な救済を図ることができず、自賠法の趣旨に反するのではないかという問題提起がなされ、主張・立証責任については裁判実務では別の考え方が形成されています。
上に述べた別の考え方については、次回以降にご紹介したいと思います。