今回は、休業損害の請求で難しいケース、事故当時、無職の被害者や前年度の所得を正確に証明できない被害者の休業損害についての判例をご紹介します。

第1 事故当時被害者が無職であった場合の判例

1 横浜地裁 平成19年1月18日判決(事件番号 平成16年(ワ)第4438号 損害賠償請求事件)は、以下のように事故当時無職であった被害者の休業損害について判断しています。

2 休業損害についての判旨(抜粋)
(1)前記「争いのない事実等」、証拠(略)によれば、
ア 原告は、昭和61年3月に大学を中退した後、同年6月から昭和62年10月まで中学生向けの塾の講師を務め、昭和63年3月から平成元年4月までゴルフ会員権の販売会社、平成元年6月から平成3年3月まで輸入雑貨品や玩具類を扱う貿易会社、同年9月から平成4年11月までアートグッズを取り扱う会社、平成5年3月から平成6年6月までアーティストのアシスタント及びプロモートを行う会社に勤務し、平成7年12月に就職した会社では商品管理業務に当たったが、本件事故当時は無職であり、求職中であったこと、

イ 原告は、普通自動車運転免許を有しており、また、公的資格は取得していなかったものの、外国語に通じ、上記貿易会社在籍中は香港においてセールス、輸出業務、現地の工場の生産管理業務に携わっていたことが認められる。 この点、被告は、本件事故当時、原告は親から生活の援助を受けていた旨主張するが、原告の実父はこれを明確に否定しており(証拠略)、被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(2)上記認定事実に加え、本件事故当時、原告に具体的な就労の見込みがあったとは認められないことを考慮し、原告の休業損害算定に当たっての基礎収入は、賃金センサス平成13年第1巻第1表産業計男性労働者学歴計40歳から44歳の平均年収額651万9,600円の5割である325万9,800円をもって相当と認める。この基礎収入を基に本件事故日から症状固定日までの休業損害を計算すると(年365日日割計算)、1,164万5,970円(小数点以下切捨て、以下同じ。)となる。
と、判断しています。

3、以上の判例によりますと、事故当時無職であったとしても、休業損害が認められる場合があるといえます。

第2 前年度の収入を正確に証明できない場合の判例

1 大阪地裁 平成22年3月15日判決(事件番号 平成19年(ワ)第8174号 損害賠償請求事件)は、以下のように判断しています。

2  休業損害について判旨(抜粋)
ア 基礎収入
 証拠(甲19、20、23、27、28、36、38~42、45、原告本人)に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、本件事故当時、夫と離婚し、近所に住む年老いた両親のもとに未成年の2人の子を預けて同人らを扶養しながら、本件交差点北西角の○○ビルの2階にて「△○」という屋号でラウンジ風の飲食店を、1階で鍋料理専門店を、それぞれ経営していたこと、本件事故により、平成14年8月1日以降休業しそのまま廃業せざるを得なくなったこと、○○ビル1階は平成15年2月18日まで、2階は同年1月31日まで賃借を継続していたこと、廃業にあたって空家賃、原状回復、借入金返済、機器リース料返済等多額の負担が発生したこと、平成13年の原告の申告所得(申告書は平成15年1月6日受付)は2,917,710円であること、平成14年の申告所得(本件事故日である平成14年6月12日分まで。申告書は平成15年4月3日受付)は2,024,927円であること、原告は、本件訴訟において、申告所得は利益を圧縮しているので不正確であり、実際の売上と利益はさらに多額であると主張し、その裏付けとなるという資料を作成していること、少なくとも、原告が、その飲食店経営にあたり、税務申告書より多額の固定経費、借入金やリース料を支払っていたこと、原告は、平成16年7月14日から平成19年6月5日まで生活保護を受けたことが認められる。

 そうすると、原告には、申告所得額を超える可処分所得があり、本件事故による休業により、固定経費など一定の財産的損害が発生したことは一応推認されるが、原告の事業所得を正確に認定することは困難であり、空家賃などの期間も、飲食店再開を望む心情は理解できなくはないが、本件事故と相当因果関係があるとはいい難いこと、しかし、申告所得額に固定経費(地代家賃)を計上した金額が事故当時の平成14年学歴計全年齢女子平均賃金3,518,200円を上回ることは認められること、未成年の子2人を扶養していたこと、そして、確定申告とは異なる所得額を主張することについては信義則上も問題があることにかんがみると、原告の営業損害については、平成14年学歴計全年齢女子平均賃金3,518,200円をもって基礎収入として、休業損害を算定することとする。
と、判断しています。

3 上記判例は、事故当時に事故日の前年度の申告所得額を超える可処分所得があった事実を、固定経費を計上し、また扶養家族がいた等の事実を勘案し、認めていることがわかります。
 自営業者が利益を圧縮して不正確な所得の申告をしているケースは少なくありませんが、上記判例のように、申告所得額を超える過分所得が基礎収入として認定される場合があるといえます。