イ、RI脳槽シンチグラフィーの結果と他の裁判例の紹介
(ア)膀胱集積のケースについて
本裁判例のようにRI脳槽シンチグラフィーの結果としてRI(放射性同位元素)が膀胱に早期に集積したというケースでは、今後も新しい医学的知見の発見がない限りは被害者にとって厳しい判断が続く可能性があります。
(イ)クリスマスツリー所見の場合について
また、RI脳槽シンチグラフィーの結果として腰のあたりに左右対称にRI(放射性同位元素)がクリスマスツリーのように広がっていく画像が撮影された場合も、厚生労働省の研究チームは髄液の漏れていない健康な人にもあり得る現象であるため、このタイプの検査結果は参考程度にとどめるべきだとしております。
そして、他の裁判例でも(東京高裁判決平成27年2月26日判例秘書L07020064)、クリスマスツリー状の所見については「一応、参考所見とはなり得るものの、診断基準としての信頼性は低い」として、脳髄液減少症の発症は認められておりません。
脳髄液減少症に関連する基準は多数ありますが、やはり厚生労働省の研究チームの発表内容の影響は大きいため、このタイプの画像所見があったとしても被害者にとって厳しい判断がされる可能性があります。
(ウ)片側に偏っているケースについて
他方で、RI脳槽シンチグラフィーの結果として、片側だけに髄液が漏れていたり、左右非対称に髄液が漏れている疑いがある画像が撮影された場合には、厚生労働省の研究チームの発表においても十分に診断の根拠となるとされております。
近時の裁判例も(さいたま地方裁判所判決平成26年12月4日判例秘書登載L06950696)RI脳槽シンチグラフィーの画像診断によって片側限局性のRI(放射性同位元素)異常集積があったことを重視して、外傷性低髄液圧症候群が発生したことを認めております。
(エ)RI脳槽シンチグラフィーを受けるべき場合もあること
このようにRI脳槽シンチグラフィーの検査結果は、具体的な内容次第では脳脊髄液減少症(脳脊髄液漏出症)の重要な証拠になる場合もあります。
実際に検査を受けるかどうかは医師と相談して医学的な見地から決めて頂くべきですが、仮に医師が検査を指示する場合には患者としても積極的にRI脳槽シンチグラフィーを行うことを検討すべきです。
(3)MRIとMRミエログラフィーの画像所見が不十分であったこと
本件では被害者はMRIやMRミエログラフィー(脊髄腔の形状や交通性を診断するために腰椎から造影剤を脊髄腔内に注入してから造影剤の拡散の様子を撮影する検査です。)の所見についても脳脊髄液減少症(脳脊髄液漏出症)の証拠となると主張しています。しかし、裁判所は、やはり厚生労働省の研究チームの発表内容を参照して、本件の画像所見の証拠としての価値は高くないと考えて、「髄液漏れがあったことを裏付ける客観的所見があると認めることは困難である」と判断しております。
このようにMRIとMRミエログラフィーは、本裁判例では脊髄が漏れていることに関する強い証拠として評価されませんでしたが、厚生労働省の研究チームもこれらの検査結果自体は「重要な所見である」等としているため、具体的な内容次第では脳脊髄液減少症を認めてもらうための極めて有力な証拠になり得ると考えられます。
(4)ブラッドパッチによる症状改善が認められなかったこと
ブラッドパッチとは血液が固まることを利用して髄液が漏れる穴を塞ぐ治療法のことです。本裁判例では、被害者はブラッドパッチを受けた後も多数の症状を訴え、複数の医療機関に通院を継続していたことに鑑みるとブラッドパッチが奏功したと評価することは困難であると判示されております。
ブラッドパッチは脳髄液減少症の代表的な治療法であるため、裁判ではこの治療法による効果があったかどうかという点が検討される傾向があります。
3 立ったり座ったりすると頭痛が始まる場合はどうしたら良いか?
交通事故の後に立ったり座ったりすると頭痛が始まるような場合には必ず弁護士に相談して下さい。
脳脊髄液減少症は大変難しい分野です。今回紹介することはできませんが、本来であれば知っておくべき診断基準や裁判例も多数あるため、交通事故や医療に詳しい弁護士にご相談いただくべきだと思います。