1 症状固定と損害賠償の原則

 交通事故に遭ってケガなどをし、入通院が必要となった場合、これにかかる治療費は当然、交通事故によって被害者に生じた損害であり、加害者によって賠償されるべきものとなります。
 もっとも、不幸にして症状のすべてが軽快することなく、痛みなどが残ることも往々にしてあります。
 症状は残存しているものの、治療によってもそれ以上改善する見込みがなくなること(より正確には、「傷病に対して医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過により到達すると認められる最終の状態に達すること、また、そのとき」。)を「症状固定」といいます。症状固定になると、それ以後医療機関にかかる費用は、もはや交通事故の受傷等の「治療」としては意味がないものと考えられることから、損害賠償の対象ではなくなるのが原則です。

2 将来の治療費が認められる場合

 しかし、たとえ症状固定後でも、症状の内容や程度、及びこれに対応する治療の内容等によっては、交通事故によって生じた損害の一部として賠償が認められることもあります。
 また、そのような治療が一過性のものではなく、将来にわたって行われる必要があるものである場合には、「症状固定後の治療費」というよりも、むしろ「将来の治療費」として認められることになるでしょう。

 また、将来の治療費が認められる場合には、併せて将来の付添看護料、入院雑費、交通費も認められる可能性があることを忘れてはなりません。

3 症状固定後の治療費(将来の治療費)が認められた事例

 では、症状固定後の治療費等が認められた例としてはどのようなものがあるのでしょうか。具体例をいくつか見てみましょう。