逸失利益ってなに?
交通事故でけがをし、治療したが、完治せず後遺障害となってしまった場合、後遺障害によってその後仕事に支障をきたし、事故前と同様の収入が得られなくなることもあります。このような事故がなければ得られていたはずなのに事故によって得られなかった利益を逸失利益と言います。
逸失利益の計算の仕方
事故前に得ていた年収(基礎収入)のうち後遺障害の度合いに応じた労働能力喪失率に相当する割合の部分が1年間の逸失利益であり、これを働くことができるであろう期間(労働能力喪失期間)ずっと得られなくなるわけですので、その期間に対応する逸失利益を損害として補てんする必要があります。
ただ、これを一括で渡す場合、単に1年間の逸失利益に労働能力喪失期間をかければいいわけではありません。なぜなら、一般的にお金は時間を使って運用することで利息の分だけ利益が増えるため、同額のお金であっても今現在の価値と将来の価値は違うからです。つまり、1年後にもらえるはずの100万円は、1年間分の利息がついた結果100万円になっていますから、それを今すぐもらう場合にはその利息分を除いた部分しかもらえないというわけです。これを難しい言葉で中間利息控除と言いますが、現在、実務では、中間利息は年5%の割合で控除するとされており(最高裁平成17年6月14日判決)、中間利息の計算方法としてライプニッツ係数が主に使われています。
逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
民法改正で何が変わる?
では、民法が改正された場合、逸失利益については何が変わるのでしょうか。上で示した逸失利益の計算の仕方は基本的に変わりませんが、改正民法案をふまえると、ライプニッツ係数が変わってくる可能性があります。
上記の中間利息控除の年5%とは、現行民法で法定利率が年5%と定められていることに由来します(現行民法404条)。そして、この利率は固定されています。
この法定利率が、改正民法案では年3%をスタートとする変動制に変更されています(改正民法案404条)。つまり、金利の動きによって、法定利率が年4%にも年2%や1%にも変わる可能性があります。
そして、それに合わせて、ライプニッツ係数も変動することになります。たとえば、32年のライプニッツ係数は、年5%とすると15.8027であるところ、年3%であれば20.3888になります。
民法が改正されたら逸失利益が上がる?
上記の改正民法案で具体的に考えてみましょう。
年収500万円であったAさん(事故当時35歳)が交通事故に遭い、後遺障害等級9級が認定された場合、現行民法では、
500万円×35%(9級の労働能力喪失率)×15.8027(労働能力喪失期間を67歳までの32年間と想定)=2765万4725円
となりますが、改正民法案を前提にすると、
500万円×35%×20.3888=3568万0400円
となり、800万円以上も高額になります。
改正民法案では利率の変動制がとられているため、法定利率が年5%となった場合には現在と変わらず、年6%以上になった場合には、反対に金額が低くなってしまいますが、改正当初は年3%とされているため、改正直後には逸失利益が現在より高くなるでしょう。