1 保険金の支払い
万が一のときに備えて生命保険に加入されている方は多いと思いますが、生命保険に加入していて被保険者が死亡した場合、保険会社から生命保険金が支払われることになります。
このとき、生命保険金が支払われたことで被害者の損害が填補されたとして、加害者に対する賠償請求ができる額も減少するのでしょうか?
また、事故で怪我をして人身傷害補償保険から保険金の支払いを受けた場合と違いがあるのでしょうか?
今回はこの点について見ていきたいと思います。
2 損益相殺
事故の被害者が、加害者からの賠償以外に損害の填補を受けた場合、加害者からさらに同じ損害について填補を受けることは公平に反するという理由から、加害者に対する賠償請求に当たって既に填補を受けた分を差し引くという処理がなされています。
このことを損益相殺といいます。
そこで、生命保険金を受け取った場合にも、この損益相殺がなされるのではないかが問題となります。
3 判例
この点について判例は、
「生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払われるべきものであるから、たまたま本件事故のように不法行為により被保険者が死亡したためにその相続人たる被上告人両名に保険金の給付がされたとしても、これを不法行為による損害賠償額から控除すべきいわれはない」
として、損益相殺をしないこととしました(最高裁昭和39年9月25日判決)。
4 まとめ
以上のように、現在の実務上、生命保険金を受け取った場合であっても、その分加害者への賠償請求額から差し引かれるということはされていません。
同様に、人身傷害補償保険によって支払われた保険金についても、保険金を受け取ったことを理由とする損害賠償額からの控除はなされません(最高裁平成20年10月7日判決)。
ただし、人身傷害補償保険の場合、保険金が支払われると、保険会社が、被害者が持っている損害賠償請求権の一部を代位取得する可能性があり、その結果、被害者がその限度で損害賠償請求権を失うことになるという違いがあります。
保険金の給付等、事故を原因として加害者からの賠償以外で支払いを受けた場合、どの範囲で請求が可能なのかについては、複雑な問題がありますので、適切に賠償を受けるために、一度専門家にご相談されてみてはいかがでしょうか。
弁護士 福留 謙悟