皆様、こんにちは。
1.はじめに
家事事件を取り扱う弁護士や家族法の領域を扱う研究者の中では有名な「家庭裁判月報」という雑誌が、昨年刊行終了となりました。世間からしてみれば狭い話題だったかもしれませんが、業界的にはかなり衝撃的でした。
ところが、今般、日本加除出版社がその遺志(?)を継いで「家庭の法と裁判」という雑誌を刊行されることになりました。その情報自体は昨年末頃には知っていたのですが、最近になって同社からお試し用に創刊準備号が送られてきました。
そちらに掲載されていた審判例がかなりレアな内容でしたので、今回はそちらをご紹介します。
2(1).事案の概要
Aが亡くなりました。Aさんの夫の妹であるBさんが家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申立てを行い、Aさんの相続財産管理人が選ばれました(①)。
それからBさんは、Aさんとの関係で特別縁故者であるとして、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てをしました(②)。
しかし、Bさんは申立後、分与についての判断が出る前に亡くなってしまいました。
今度は、Bさんの友人であったCさんが、家庭裁判所に対してBさんの相続財産管理人の選任を申し立てました(③)。
上記②の申立ては、Bさんが亡くなったことを理由に終了したとの審判が下されました(④)。
その後に、上記③の申立てについてBさんの相続財産管理人が選任されました。
また、上記④の内容がBさんの③の申立てを担当した代理人弁護士に通知されました。
Bさんの相続財産管理人が④の審判に対して即時抗告の申し立てをし、Bさんの③の申立てを担当した代理人弁護士も④の審判に対して即時抗告の申し立てをしました。
2(2).判断の要旨
抗告審をつとめた東京高等裁判所平成25年7月3日決定によれば、特別縁故者による分与の申し立てがなされると、相続財産の分与を受けることが現実的に期待できる地位を得ることになり、その地位は財産的性格を帯びるとのことでした。そして、分与の申立人の地位は相続性があると解しました。
他方で、相続人の存在が明らかにならない時には相続財産法人が成立すると定めてられている(民法951条)ところ、相続財産法人は被相続人が死亡して相続が開始した時に、被相続人の一切の権利義務及びその他の法律関係を承継するから、相続人と同様の地位にあるとします。
この解釈を前提に、本件では、Bさんが特別縁故者の申立人となった地位をBさんの相続財産法人が承継したことになるため、Bさんの特別縁故者による分与の申立てを終了とした上記④の審判は相当でないとして、取り消しの上、差し戻すとの判断を下しました。
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(1) 特別縁故者の申立てをした方が手続の最中に亡くなるというのは確かにレアな話だと思いました。
(2) 相続人が不在の場合には、上述のとおり相続財産法人が成立します。被相続人が亡くなったけれども相続人が不在の場合には、財産の帰属先が不明となってしまうことへの措置です。
そして、検察官や利害関係人の申立てにより家庭裁判所から相続財産管理人が選任されます(民法952条1項)。
さらに相続人捜索の公告(民法958条の2)を行っても誰も相続人として名乗りを上げない場合、相続人でなくとも一定の条件を満たす者が「特別縁故者」として相続財産の分与を受けることの申し立てをすることができます(958条の3)。
(3) ここで、改めて上記2の抗告審決定の内容を補足説明しますと、BさんがAさんの特別縁故者にあたるという地位が、Bさんを被相続人とする相続の対象となるかもしれません。そこで、まずは特別縁故者の地位にあたるか否かの判断をする必要がある、という論理的な判断をしたということです。そうしないとBさんの相続財産法人の内容がわからないし、Cさんがさらに特別縁故者としてどれだけの分与を受けられるかも決まらないのです。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。