故人の遺品整理などの際に、故人が他人にお金を貸した際の借用証等が出てくる場合があります。その借用証がだいぶ前(たとえばちょうど10年前)のものだったとして、相続人は被相続人である故人の貸金債権を行使して金銭の支払を請求することができるでしょうか。
他人に対する貸金債権も相続財産である以上、相続の対象となります。そのため、相続人は相続により、故人が有していた貸金債権も取得することができます。
もっとも、借用証がだいぶ前のものである場合、消滅時効によって、権利が消滅してしまわないかが問題となります。
すなわち、民法では、商人ではない私人間の金銭の貸し借りについては、10年を消滅時効の期間と定めています(民法167条1項)。そのため、借用証が10年以上前のものである場合、10年の間に故人が相手方に対して裁判上の請求をしたり、相手方が債務を承認したりといった事情がない限り(裁判上の請求をしたり、相手方から債務の承認を得たりすると時効の進行は中断します。)、相続人が請求をしたとしても、相手方から消滅時効を理由に請求を拒まれる可能性があります。
では、借用証がちょうど10年前のものであった場合、相続人は請求を直ちにあきらめなければならないのでしょうか。
この点について、民法は、相続財産に関する時効の停止の規定を定めており、相続財産に関しては、「相続人が確定した時」等から「6箇月を経過するまでの間は」「時効は完成しない」旨が定められています(民法160条)。
相続財産に関しては、相続人が確定するまで多少の時間がかかってしまうのが通常であり、その間、相続人らが相続財産たる債権を行使するのは困難であることから、救済策として、相続人が確定した後6ヶ月間は、時効完成が猶予されているのです。
したがいまして、相続人においては、借用証がちょうど10年前のものであったとしても直ちにあきらめる必要はないといえます。時効が完成していない可能性を考えてみる必要があるといえるでしょう。
なお、何年も前の借用証に基づいて貸金の返還請求をする場合は、相手方が消滅時効等を主張して支払いを拒むことが多いですし、相手方から弁済した事実等を主張されることも多いため、紛争になりやすいといえます。専門的な知識が必要になると思われますので、自分で処理をしようとせず、弁護士に相談されることをおすすめします。